GET SPORTSの棚橋弘至特集とは関係のない、中邑vs棚橋の「平成のイデオロギー闘争」

Mask_Takakura2009-11-08


今、棚橋弘至が好きなんです

11/1の深夜、GET SPORTS棚橋弘至の特集をやっていた。タイトルは「棚橋弘至がチャラい理由」。いや〜、いいタイトルだ(笑)。

この前まで新日本プロレスは嫌いでした

90年代、僕は新日本プロレス(以下、新日本)のヘビー級が嫌いだった。


ジャンボ鶴田と超世代軍の激闘の中で新しい時代のプロレスのスタイルを模索、やがてこれを四天王プロレスとして昇華して行った全日本プロレス。80年代後半を一気に駆け抜けて現在の格闘技ファンの礎を確立、更にはプロレス界に新たなビジネス・モデルを提示した第二次UWF。日本では軽視されていたルチャ・リブレというジャンルを再評価させたユニバーサル・レスリング連盟。デスマッチの中で生まれる痛みというリアリティで世間と闘い、一人の教祖を作ったFMW。海の向こうではWWF(当時)が既に、いつ終わるとも知れぬエンターテイメント・プロレスの全盛期を迎えていた。


その中にあっての、当時の僕の新日本ヘビーの印象は「UWFほどには打撃や関節技が強烈ではなく、全日本みたいに真剣にプロレスと向き合っているワケでもない団体。大体、日本人の選手でリングアウト以外でビッグバン・ベイダーを倒せる選手なんているのかぁ?」ってな感じ。ああ、何かというと選手が「新日本がNo.1だ!」ってアピールするのも嫌だったし、93年にUFCが誕生した直後、まったく動こうとしないのも嫌だったなぁ。同じ新日本でも、獣神サンダー・ライガー&二代目ブラックタイガーワイルド・ペガサスといった役者が揃っていたジュニア・ヘビー級は好きだったけどね。


ってなワケで、新日本が週刊プロレスを取材拒否した時も「余計な記事がなくなって、読み易くなったなぁ」程度にしか思っていなかった僕が突然、新日本を注目するようになったのは、この棚橋弘至という存在を知ったからだ。

今年まで、1.4といえば全日本キックのことでした

1月4日。当時のプロレス界では異例とも言えるカードの良さや、ダイスさんやタカハシさんといったかつてのkansenki.netの常連達から「今の新日本は面白い」という話を散々聞いていたこともあり、今年は毎年恒例の全日本キックの1.4後楽園を蹴ってまで新日本を観戦。ミスティコ、MCM、カート・アングルケビン・ナッシュ、チーム3D、そして秋山準三沢光晴といったオールスターを迎えて行われた今年の1.4東京ドーム。そのメインで僕は、初めて棚橋というレスラーを生で観た。


師匠である武藤敬司が持つIWGPヘビー級王座へ挑んだ棚橋は、致命的に膝の悪い武藤を相手に堂々とした立ち回りと独特の間、小さい身体をフルに使ってプロレスを表現。武藤から継承された「間のプロレス」にジュニア戦士の立ち回りを加味した、独特で器用なスタイル。昔の新日本では「絶対にトップを取れないタイプ」の選手がIWGPを奪還する中、棚橋は最後にしてまぁ〜すっ!」の一言で興行を締めくくった。


「ああ、ようやく『ストロング・スタイル』という70年代〜80年代の看板と、本気で闘おうする選手が出てきたんだ…」と感じた僕はそれ以来、ちょこちょこと新日本を生観戦するようになった。それまで、その存在を忘れていたテレ朝の「ワールド・プロレスリング」も、見れる時は意識して見るようになった。

最近、色々と判ってきました

結果、色々と判ってきた。


・ジュニア戦線は、昔でいうところの「いかすタッグ天国」と化している
・恥を掻いて苦労を重ねた永田裕志、中西学の支持率が異常に高い
・会場人気No.1は外国人留学生の天才レスラー、プリンス・デビィッド
・カール・アンダーソンのセコいキャラが興行のスパイスになっている
・実は2009年現在、カート、3D、ミスティコといった異国のトップレスラーを生で観れる、唯一の団体
・密かにマッチメイクがパッケージ・プロレス化しており、起伏に富んだカード編成が好評


そして、これもよく判った。


・新しい客層は、棚橋が最後にしてまぁ〜すっ!」と叫ぶのを待っている


「五年前くらいの『最悪の状況』からは脱却した」という声も多い現在の新日本。当然ながら客層にも変化が起きており、新しい客層は棚橋のしてまぁ〜すっ!」を期待して待っているのだ。そして古い客層の中に、こういう棚橋の言動を極端に嫌う人がいる。そういった事を含めて、棚橋は雑誌のインタビューで「いや〜、すべては俺の手の中ですよ」と語る。

今まで、こんな選手はいかなったでしょ

今まで新日本に所属していた選手達は皆、「闘魂」や「ストロングスタイル」といった旗頭の元、猪木が残したものを受け継ごうして重圧に潰されたり、あえてそういった事とは関係のない場所に身を置いたりしてした。


棚橋がやろうとしている事はちょっと違う。生で棚橋を観ればすぐに判ることなのだが…彼は本気だ。本気でしてまぁ〜すっ!」の決め台詞で、新日本から「ストロングスタイル」という言葉を排除しようとしているのだ。この番組の中で棚橋は、自らの指示で新日本の道場の「猪木の巨大パネル」をはずさせた、という話を披露。自らが切り開く新しい客層との共犯関係に対し、棚橋はそれだけの自信と自負があるのだろう。


今、プロレス界にこれだけ「自らの力で団体を牽引する選手」がいるだろうか?僕が棚橋に興味を持った理由が、そこにある。

今日、新日本の昔と今が交差します

これに対して棚橋のライバルであり、今日の両国国技館で対戦する現IWGPヘビー級王者・中邑真輔は逆に、今更ながらに猪木を挑発することで棚橋の存在を完全に無視。「このIWGPに、昔のような輝きがあるかっ!? 俺はないと思う、足りない! 猪木ーー!! 旧IWGP王座は、俺が取り返すっ!」と叫び、ストロングスタイルの復古をアピールした。自分の力によって変えた新日本の風景を、中邑は「使い古された手法」で破壊しようとしているのだ。棚橋にしてみれば、これほど面白くないことはないだろう。


今日のIWGPヘビー級選手権は、最近は経営がやや右肩上がりになってきた新日本にとって、そのファンにとっても重要な意味を占める。中邑が勝てば今後の一年間は「ストロングスタイルの復古」に動くだろうし、ファンもそれを期待するだろう。棚橋が勝てば、新日本は再び棚橋を中心としたエンターテイメント路線を継続していくと思われる。


「平成のイデオロギー闘争」


…こうして、スッカリ番組に煽られた僕は今日、両国国技館新日本プロレスを観戦してきます。