3/28 大相撲 平成二十二年度春場所 徒然観戦記 Ver1.0

Mask_Takakura2010-03-28

把瑠都のおかげで、意外に面白い場所になりました

「平成の大横綱朝青龍が泥酔暴行問題の責任をとって引退し、長年大関を務めた千代大海もついに引退。更にはかつて人気力士として幕内で活躍していた北桜までもが引退してしまった。00年代の土俵を沸かせた力士達が次々と土俵を去っていく中で迎えた大相撲の平成二十二年度の春場所(大阪)だが、最近は関脇で好調をキープしていた把瑠都大関昇進が掛かった場所という事で、話題性自体はキープできていたように思う。把瑠都は根っから明るいし性格が良いから、相撲ファンにも人気があるしね。

初日恒例の協会挨拶では、理事長が朝青龍の暴行問題について謝罪するという、異例の事態の中で迎えた春場所。だが蓋を開ければ、注目株である把瑠都が十日目を終えて全勝という好戦績。朝青龍なき後『一人横綱』の重責と負う白鵬も、ここまで取りこぼす事なく全勝をキープ。十一日目には把瑠都大関昇進と初優勝という大きな目標に向けて横綱に挑むという、非常に良い流れの一番が実現。

う〜む。元々、北の富士以来となる四十三年ぶりの十両全勝優勝を果たした上、各界入りからたったの十二場所で入幕を果たした逸材である把瑠都。しかしスピード出世ゆえに稽古が追いつかず、左膝の怪我が追い撃ちを掛けて一時期は足踏みの状態が続いていたのになぁ。ここに来て、ようやく上位でも安定した戦績を残せるようになったか。こうなると、彼に対して朝青龍に変わる「新しい力」を期待するのは自然の理だろうね。もっとも、相撲内容は朝青龍というよりは曙なんだけどさ(苦笑)。

十一日目 結びの一番 意外にあっさりしていた?いやいや、そこには駆け引きがあるのですよ

白鵬(192cm/152kg/宮城野部屋/モンゴル/十一勝無敗)
把瑠都(198cm/188kg/尾上部屋/エストニア/十勝一敗)
[上手投げ]

把瑠都と相対する横綱白鵬は、ここまで対戦相手にまったく隙を与えずに十連勝。ぶっちゃけ今の白鵬の存在を脅かせる力士は、ライバルの日馬富士、巨漢の把瑠都琴欧洲くらいしかいないからねぇ。この中に日本人力士がいないのが情けない限りだけど、まあ事実だから仕方がない。あえて一人上げるなら稀勢の里なんだけど、最近は伸び悩んでいるし…。困ったもんだ。


いよいよ始まる今場所の天王山。仕切り前、カメラに向かって厳しい目を向ける白鵬に対して、把瑠都白鵬の眼の前にして口元を真一文字に結ぶ。

立ち合いは五分、まずは胸を合わせる二人。だが白鵬はすかさず把瑠都の深い懐の中に入って左上手を取る。完全に遅れをとった把瑠都は、胸に頭を合わせて低く構える白鵬の上手を取ることができない。凄いな白鵬、さすがは横綱




こうなると白鵬は強い、必死にまわしを取ろうとする把瑠都から、あっさりと右下手も取ってしまう。焦る把瑠都は巻き替えに行くも、このタイミングに合わせて白鵬は一気に前に出て土俵際へと寄り、最後は右の上手投げ一閃!哀れ、把瑠都は土俵下へと一直線。期待された全勝対決は、終わってみれば白鵬の強さばかりが目立つ、文字通りの「横綱相撲」となった。



う〜ん、最初に横綱に左上手を取られた時点で、この相撲は「勝負あり」だったな。それにしても、この一番では最初からまわしを捕りに行った把瑠都だけど、何でだろ?見た目通り、四つ相撲よりも張り手で力を発揮するタイプの力士なのになぁ。

…と思って色々調べていたが、どうも先場所での一番がポイントになっているようだ。この時は同じ形から把瑠都に巻き替えた末に、掬い投げで白鵬から金星を上げていたのだそうな。ふ〜む、把瑠都は先場所の勝利のイメージがあってまわしを捕ろうとしたワケだね。そして白鵬は、それを知っていて巻き替えのタイミングを待っていた…。う〜ん、相撲は奥が深い、そして白鵬は強い。


直接対決を終えた二人、だが春場所は続く

天王山の十一日目を終えた後は十二日目、十三日目で白星を挙げた白鵬把瑠都。いよいよ優勝戦線はこの二人に絞られる中で迎えた十四日目。まずは把瑠都が、琴奨菊に豪快な右喉輪からのはたき込みで勝利し、白星を十三勝に伸ばす。これで大関昇進が確実になった把瑠都に対して、全勝を守る白鵬の相手は…。

十四日目 結びの一番 無人野を行くが如く

白鵬(192cm/152kg/宮城野部屋/モンゴル/十四勝無敗)
琴欧洲(203cm/155kg/佐渡ヶ嶽部屋/ブルガリア/九勝五敗)
[上手投げ]

幕内では唯一、2mを超える長身の持ち主である琴欧洲、ここまでの戦績は九勝五敗。大関の戦績としては及第点ではあるものの、同じ大関でも魁皇琴光喜とは違って「綱を取れる器の持ち主」なだけに、ズバリ言って「精細に欠ける」と言わざるを得ないだろう。しかし長身を活かした双差しから鯖折りが決まれば、誰が相手でも屈服させるだけ力を持っているのも事実。今日は横綱を相手に、大関の意地を見せれるのか?


…と思ったら、この日も白鵬は強かった。立ち会いから鋭く踏み込んで素早く左上手を取った白鵬、そのままグイグイと琴欧州を押し込んでいく。懐に潜られた琴欧洲はなんとか左上手を取ろうとするも、白鵬は隙を与えず一気に土俵際へと追い込むと、得意の左の上手投げで琴欧洲の巨体を一回転させた。万全の相撲で白星を伸ばした横綱が、いよいよ優勝へ王手を掛ける。




ぬぅ。テレビで解説陣も指摘していたが、まるで相手がいないかのような横綱相撲だったな。白鵬の動きばかりが目立ちて、琴欧洲の存在感がまるで皆無だった、というか。こりゃ、どんなに把瑠都が頑張っても白鵬の優勝は揺るがないな。あ〜あ、やっぱり朝青龍がいないと相撲は締まらないなぁ。白鵬を止められる力士は、いまの幕内にはいないしなぁ…。


そんな事を考えていた時期が、僕にもありました。


十一日目の緊張感は、そのまま千秋楽まで続いた

横綱白鵬が全勝、それを大関取りが掛かった把瑠都が一敗で追う。十一日目の直接対決での星取りが、そのまま優勝を左右する…という緊張感のある展開で迎えた春場所の千秋楽。う〜ん、大関昇進の掛かる場所だから「把瑠都はそれなりに頑張るだろう」とは思っていたが、正直ここまで活躍するとは思わなかった。把瑠都関、申し訳ありませんでした。

先場所に横綱大関が引退した影響で、今場所は関脇の把瑠都も三役揃い踏みに参加。白鵬魁皇と並んで扇の形で四股を踏む把瑠都。日本人では巨漢の部類に入る魁皇、そしてその魁皇以上の巨体を持つ把瑠都。間に挟まる形になる白鵬を含めて、並んだ時のバランスが非常に良い。

千秋楽 三役の一番 勝って兜の緒を締めよ

把瑠都(198cm/188kg/尾上部屋/エストニア/関脇/十四勝一敗)
琴光喜(181cm/166kg/佐渡ヶ嶽部屋/大関/九勝六敗)
[寄り切り]
把瑠都が敢闘賞/技能賞を受賞

千秋楽の把瑠都の相手は、日本人大関琴光喜。先場所は怪我により途中欠場した琴光喜は今場所は角番だったが、十一日目に八勝を挙げて角番を脱出するも、その後は星が伸びずに九勝五敗。正直、精細に欠ける大関では、飛ぶ鳥を落とす勢いの把瑠都には勝てないだろう…と予想しつつ観戦。

仕切りよりも後ろで構えて立ち合いに勢いをつけた琴光喜把瑠都の張り手の連打を喰らって顎は上がるも、下がらず果敢に前に出る。このあたりは大関の面目躍如だが、把瑠都は難なく右上手と左下手を取ると、胸を合わせて力任せに一気に寄る。右下手しか取れていない琴光喜は力が出せず、把瑠都の寄るがままに土俵を割ってしまった。




すっかり好角家となったPONさん(id:pon-taro)をして「これは『把瑠都の時代』が来る!」と言わしめた会心の相撲内容。得意の強烈な突きから、巨体を活かした寄り。今日は「自分の相撲」で勝利を得た把瑠都大関昇進が掛かった場所で十四勝一敗という戦績は本当に素晴らしいが、まだ春場所は終わったわけではない。残された「幕内最高優勝への可能性」に対して人事を尽くした把瑠都、あとは天命を待つばかりだ。

千秋楽 結びの一番 こういう相撲が見たかった!

白鵬(192cm/152kg/宮城野部屋/モンゴル/十五勝無敗)
日馬富士(185cm/130kg/伊勢ヶ濱部屋/モンゴル/十勝五敗)
白鵬幕内最高優勝

いよいよ訪れた、千秋楽の結びの一番。全勝の白鵬の相手を務めるのは、ライバルの業師・日馬富士。これまでの二人の戦績は白鵬の十四勝七敗。一見、大きく水を開けられいるように見えるが、白鵬横綱になってからの戦績は九勝七敗とほぼ五分な上、先場所は送り出しで日馬富士が白星を上げている。この場所では磐石の強さを発揮する白鵬だが、稽古の虫と呼ばれる日馬富士の地力と技は脅威そのものだ。モンゴル人同士、そして同学年のライバル対決に掛かった懸賞は五十本、力士の手取りで百五十万円也。それにしても、ちょっと前まではソップ型力士の代表のような身体だった日馬富士だけど、最近は身体が大きくなってきたなぁ。


立ち合いは五分。両者とも思いっきりぶつかり、次の瞬間には張り手の応酬へ。ここで絶妙なタイミングで、身体を逸らして出し投げを狙う日馬富士、だが白鵬はバランスを崩すことなく右下手を取り、胸を合わせて強引に寄っていく。だが日馬富士は土俵際で残すと、今度は右の下手投げを狙う白鵬。だがこれもやや強引で、日馬富士はバランス良く身体を残す。日馬富士は左上手、白鵬は右下手を取ったまま両者が動かなくなるも、したたかな日馬富士白鵬の胸に頭を付けている。今場所、初めて白鵬が劣勢となる展開。「千秋楽の結びの一番」に相応しい内容に館内が大いに沸く。




今度は日馬富士が左上手から身体を回転させての強引な上手投げを狙うも、白鵬は残して逆に右の下手投げ。日馬富士もこれを残し、再び白鵬の胸に頭を付ける。ここまでは苦しい展開が続く白鵬だが、日馬富士の寄りに胸を合わせ、ついに得意の左上手を取って体勢を五分に戻すと、すかさず全身を使って左の上手投げを狙うが、日馬富士は重心を低くしてこれを防御。力の入った名勝負に、館内が再び沸き上がる。



そんな中、勝負を決めたのはやはり白鵬。重心を低くする日馬富士の右腕を左脇に抱えると、そのまま全身を引っこ抜くような強引な左からの上手投げを一閃。右腕で首根っこを抑え付ければ、全身の力で投げられた日馬富士は土俵の上を一回転。「さすがは横綱!」と言いたくなるような勝ちっぷりを見せた白鵬は、この勝利により「全勝」という文句のない戦績で、幕内最高優勝を果たしたのだった。



いや〜、千秋楽の結びの一番を飾るに相応しい、素晴らしい相撲内容だった。大関としての、同世代のライバルとしての意地を見せる日馬富士。そして、それを力で強引に捻じ伏せる白鵬朝青龍が土俵を去った時、僕が最初に思った「もう、こういう『厳しい内容の相撲』は見れなくなるのでは?」という懸念は、この一番で吹き飛ばされた。いや〜、本当に緊張感ある凄い相撲だったけど…。上手を取られて懐に潜られても尚、五分の体勢に戻すのだから本当に強い。そして最後の豪快な左の上手投げ…。やっぱり相撲は凄い。


優勝した白鵬はインタビューの中で、自らの勝因を「勝つ相撲をとらない」という言葉で表現、視聴者と館内の人々に非常に深い謎掛けを残した。この言葉を解説席で聞いていた北の富士は「歌でも『勝つと思うな、思えば負けよ』ってありますけど…」と、美空ひばりの『柔』の一節で白鵬の言葉を説明。う〜む、この言葉については、もう少し具体的に白鵬自身から色々と聞いてみたいな。




結びの一番を観戦した把瑠都。優勝の可能性がなくなったと知るや、悔しそうな表情を浮かべて花道を引き上げていった。結びでの白鵬について感想は「強いなぁ…」の一言。確かにこの一番の白鵬は強かった。
だが、根っから明るい性格なのが把瑠都のいいところ。三賞インタビュー(敢闘賞と技能賞を受賞)では、大関昇進を決定的にしたこともあり非常に上機嫌で、最後はカメラに向かってピースサインを決めた。この明るさこそが把瑠都関の魅力なのだ。


雑感

正直、僕は朝青龍がいなくなって以来、相撲への興味が薄れつつあったのだが…。今場所の白鵬日馬富士、そして把瑠都の三人は、この先も相撲が見たくなるような活躍をしてくれたと言えるだろう。特に把瑠都の強さと明るさは、どこか陰惨さが付きまとう朝青龍のイメージとは正反対で、ここ最近の相撲界にはない何かを感じた。来場所は新大関として場所を迎える把瑠都だけど…来場所とは言わないから、なんとか今年一年以内に優勝して欲しいなぁ。


あと、とりあえず来場所こそ、場所中に観戦記を書こう(苦笑)。


以上、長文失礼。どすこ〜い!