3/27 ボクシング 亀田興毅vsポンサク 有明コロシアム興行 観戦記

Mask_Takakura2010-03-27

まさか、この一戦が実現する時が来ようとは…。

亀田興毅ポンサクレック・ウォンジョンカムと闘うという事は、内藤大助と闘うことなんかよりも、ずっとずっと『運命の一戦』だと言えるだろう。


数年前、亀田家がまだ大人気だった頃に『アンチ亀田家』の人が叩く際、必ず言われていた台詞の一つに「亀田興毅は、ポンサクレックから逃げている」というフレーズがあった。

ポンサクレックといえば、2001年3月の獲得して以来、2007年7月に内藤との三度目の対戦で敗れるまで実に17回も防衛を続けたWBC世界フライ級の絶対王者。かたや当時の興毅といえば、決して日本人とは戦わずに怪しげなアジア系の選手を相手に無敗記録を積み重ねた上に、三階級制覇の礎(いじずえ)の為とはいえ階級を落としてジュニアフライ級の世界王座を目指していた頃。『アンチ亀田家』から「逃げた」と言われても仕方がないだけの判断材料が興毅にはあったのだ。

そんな彼らの運命を決定づけたのが、興毅が世界王座挑戦の機運が高まった2004年2月に行われたポンサクレックとのスパーリングだ。手合わせの後「あんな奴、大した事はない」と大胆に発言する興毅に対して、ポンサクレックは「相手はまだ子供だから、打たせてやった」と真っ向から反論。両者の間には因縁が残ったものの、6年という月日は、人々の記憶からはそんな出来事があったことを忘れさせるには充分だった。


内藤がポンサクレックに勝利して王座を奪取した事で一旦は消えたはずの『運命の一戦』は、内藤が指名試合を行わずに防衛戦を続けていた為に誕生した同階級の暫定王座の存在によって突如復活。王座決定戦に勝利し、再び王者となったポンサクレック。そして内藤を下し、二階級制覇を成し遂げた興毅。『運命の一戦』の一戦は、両者が王者のまま迎える王座統一戦という最高の形で実現する事となった。…っていうか、指名試合を消化しない時点で、内藤も亀田家のことなんて言えない気がするなぁ。


ま、内藤の話は置いておいて…。正直、興毅が内藤から王座を奪った時、僕は「どうせ『俺はもっと上を目指していくんや!』とか言って、ポンサクレックから逃げるんじゃないの?」と思っていたんだけどね。興毅選手、本当にスイマセンでした。そしてこの一戦で興毅が勝てば、彼を見る周囲の目は確実に変わるんじゃないかなぁ。何せ今日の興毅の相手は「本当の強豪」なのだからね。

「挑戦者の気持ち」になれなかったねぇ…。

WBC世界フライ級 王座統一戦 3分12R
ポンサクレック・ウォンジョンカム(162cm/50.5kg/タイ/WBC世界フライ級 暫定王者)
亀田興毅(166cm/50.8kg/亀田ジム/WBC世界フライ級 王者)
[判定 2−0]
ポンサクレックが正規王者に

この一戦に対してポンサクレックが付けた注文は「グローブの色を同じにして欲しい」。成程、両者ともに王者なのだから「立場は対等」というワケか。そしてポンサクレックに勝利すれば、名実ともに真の世界王者となれる興毅が選択したグローブの色は青。「挑戦者の気持ちで挑むため」という事らしい。その心意気や良し。

序盤戦 消極的な王者に対して、強い強い暫定王者

1R、構えは両者ともにサウスポー。内藤大助戦と同じくリングを半時計周りに回る興毅に対して、ポンサクレックは前に出る。興毅は右のリードジャブで遠ざけようとするも、ポンサクレックは意に介さず前に出てワンツーを放つ。至近距離になると右のボディフックを放つ興毅だが、基本的にはフットワークを使って距離を取っている。う〜ん、このラウンドは僅差だけど興毅かな。

2R、序盤にポンサクレックの右ボディストレートがヒット。更には右フックを当てたポンサクレックが、ジリジリととプレッシャーを強くする。興毅はカウンターを狙うが、リーチでは負けているポンサクレックは簡単には手を出さずに。充分に距離が離れたところから踏み込んでパンチを放つ。このラウンドはポンサクレックだね。

3R、プレッシャーを掛けるポンサクレック、右のボディストレートが良く伸びる。興毅は右のリードジャブでポンサクレックの動きを牽制するも、ここまで圧倒的に手数が少ない。ポンサクレックがどんどん前に出てワンツーを放つのに対して、興毅は近づいたポンサクレックに右のボディフックをちょこちょこ当てる程度の反撃。終盤、前に出る興毅にポンサクレックのカウンターの左フックがヒット。更には右のストレートもヒット。う〜ん、このラウンドは完全にポンサクレックだ。

4R、序盤は興毅は右のリード伸ばして牽制しつつ、フットワークで距離を離していく。しかし、ポンサクレックは距離が離れても、前進しながらの右ボディストレートで攻め込み、左のボディフックでポイント稼いでいく。次々に放たれるポンサクレックの左右のボディ、興毅は下がる一方だ。中盤に興毅の右フックがヒットする場面もあったが、ポンサクレックは止まらない。興毅の左のノーモーションのストレートがヒットしたりもしたが、終盤にはポンサクレックの右アッパーがヒットする。このラウンドはポンサクレックだね。

ここで序盤が終了。WBCルールによる試合という事もあり、ここまでの判定結果が発表される。それによると38-38のドローが一人、残りの二人は39-37、40-36でポンサクレックを支持。ちなみに僕は39-37でポンサクレック。ここまで、興毅は手数は圧倒的に少ないねぇ。これでは、かつては絶対王者と呼ばれたポンサクレックのプレッシャーは止められないよ。

中盤戦 アクシデント、そして王者の必死の反撃、それでも強い暫定王者

5R、ポンサクレックは細かいパンチを伸ばして攻め込む。対する興毅は右ストレートを返すが…。ここで前に出るポンサクレックと興毅の頭がバッティング、これで興毅は右目尻をカット。おお、興毅の流血は珍しいな。偶然のバッティングではあったが、これでポンサクレックは減点1。このバッティングが、ポンサクレックの心理状態を揺すれば試合は面白くなるのだが…。

さすがにベテラン、ポンサクレックはこれにまったく動揺する事なく、右ストレートを伸ばしていく。対する興毅は完全なカウンター狙いだがパンチを当てられず、攻撃は右のボディフック程度に留まる。興毅の流血がどんどん激しくなる中、ポンサクレックは容赦なくプレッシャーを強めてパンチを伸ばしてくる。興毅は右ボディフックを返すものの、解説陣が「今日のキーとなる」と指摘している右のリードジャブがまったく出ていない。う〜ん、このラウンドもポンサクレックだねぇ。

6R、相変わらずポンサクレックがプレッシャー掛けていき、細かいコンビネーションや前進しての右ボディストレートでガンガン攻め込む。興毅は相変わらずの右ボディフックを返す程度だったが、このラウンドは左フックや、左フック〜右ストレートといったパンチがヒット。だが、ポンサクレックも右ストレートを当てて反撃。う〜ん、このラウンドは僅差だけど、ポンサクレックだなぁ。とはいえ、このラウンドの興毅は良かった。この攻め方を継続できれば逆転はあるね。

7R、ポンサクレックはワンツーを連打して手数を多くして攻めるも、興毅は前のラウンドで見せた攻めの姿勢を継続、左ストレートを伸ばして右ボディフックを放つ。また「今日のキーとなる」右のリードジャブを多用しつつ、積極的にワンツーを繰り出す。ポンサクレックは左ストレートを返すも、興毅は右フック〜左ストレートをヒットさせる。終盤には右フックを当てた興毅、このラウンドは興毅がとったね。

8R、興毅の反撃を許したポンサクレックが逆襲に出る。前に出てワンツーの連打を放つポンサクレック、興毅は右フックを返すも、その後で右のストレートを喰らってしまう。これで萎縮したのか、至近距離で右ボディを放つばかりの興毅に対し、ポンサクレックのパンチが再びよく伸びるようになる。まったく攻め込めない興毅に対して、ポンサクレックの手数が増える。興毅は動きを固められてしまっている。このラウンドはポンサクレックだろう。

中盤戦終了。ここまでの僕の採点は…。減点を含めても77-74でポンサクレック。そして実際のジャッジは一人が77-76で興毅を支持するも、残りの二人は77-75、77-74でポンサクレック。う〜む、この試合展開で「興毅はポンサクレックと互角に闘っている」という採点内容はちょっと酷いね。

終盤戦 弱気な王者、最後まで攻める暫定王者

9R、ポンサクレックはこれまで以上にプレッシャーを増してワンツーを放つ。対する興毅は相変わらず至近距離から右ボディフックを返す程度しか有効打が出てこない。中盤、ポンサクレックの左フック、右ボディストレートが次々にヒット。攻め続けるポンサクレックに対して、興毅は細かいパンチで反撃するも、ポンサクレックは右のフックを入れて攻め込む。このラウンドはポンサクレックが取ったね。

10R、ポンサクレックの猛攻が続く。右フックがヒットし。更にはワンツー連打する暫定王者。対する興毅も前に出始めたが、ポンサクレックのまっすぐに伸びる攻撃を前に、なかなか打ち合う事ができない。中盤以降、興毅は何とか攻め始めるも、ポンサクレックはカウンターを合わせたり、ダッキングでかわしたりで興毅を翻弄。このラウンドもポンサクレックだな。

11R、ボディへ左右のフックを放つポンサクレックは、続いて右アッパーを興毅に叩き込む。更には右フックで追い撃ち。ラウンドが深くなればなるほど強くなるポンサクレック、終盤には右のボディストレートが興毅を襲う。対する興毅は後手に回りながらも、接近戦では右ボディフックを返したりワンツーを放ったりで反撃するが、より積極的に攻めたのはポンサクレックだろう。したがって、このラウンドもポンサクレックが取ったね。

ついに迎えた最終12R。これまでの展開を考えると、判定になれば興毅は負けてしまうだろう。それを知ってか、興毅は積極的に前に出て攻める。対するポンサクレックも逃げずに真正面から応戦、試合は最終ラウンドにして激しい展開を迎えた。興毅はこれまでのラウンドよりは良く攻めたが、今一つガムシャラさが出ていない状態。顔面の流血も激しくなる中で、最後の最後に興毅の左のストレートがクリーンヒット。これでKOができれば劇的な展開だったが、ポンサクレックはダメージのある素振りを見せない。このラウンドは興毅でもいいかな?

ってなワケで試合は終了。僕の採点では116-111でポンサクレック。そして実際のジャッジ三名の判定は、一人が114-114でドローにするも、残りの二人は116-112、115-112でポンサクレックを支持。喜びを全身で現わす統一王者に対して、元王者となった興毅はリングの四方に礼をして、応援してくれた観客に敗戦を詫びていた。


ぬぅ。変則的ファイターの内藤大助も、正統派のポンサクレックも「まっすぐ前に出て闘うスタイル」という点は共通している。内藤の突進には右のジャブを刻み続けた興毅が、ポンサクレックのプレッシャーを捌けないのは、それだけポンサクレックのプレッシャーが強かった上に巧かったのだろう。しかしまあ、試合前は「挑戦者の気持ちで」って言っていた興毅だけど、この闘い方のどこに挑戦者としての気持ちが篭っていたのかと問い詰めたいところだ。…いや、やっぱり怖いからやめとく(苦笑)。

雑感

今後の展開についてだけど、こりゃ内藤とポンサクレックの五度目の対戦も時間の問題かもなぁ。企業とかも、ブラックなイメージのない内藤にならスポンサーになってくれるだろうしね。興毅vs内藤の視聴率が40%を超えた事実や、内藤が王者時代に手にしていた興行権があと一回分あることを踏まえれば(※)、内藤が復帰戦でしっかり勝利すれば、この一戦のアッサリと実現するだろうなぁ。ま、ひょっとしたら坂田健史があたりが割って入るかもしれないけどさ。


んで、反対に負けてしまった興毅は…ちょっと厳しいかもなぁ。内藤vsポンサクレックが実現すれば「両者と因縁が深い興毅が勝者に挑戦」なんて展開も面白いけど、何せ今の興毅は「最近はなかなかスポンサーもついてくれない」なんてゴシップ記事も書かれるくらいだからねぇ。挑戦の為のお金をどこから出すのか?って事になるのかもね。ま、これを機に一つ上のジュニアフェザー級スーパーフライ級に行っちゃうのも手なのかもね。


以上、お目汚し失礼。

反省文(4/18に追記)

(※)の訂正について。

掲示板の書き込みを見ると、ポンサクレックが興毅に勝利した時点で、内藤が所属する宮田ジムは興毅の試合の興行権を失っていたようだ。この件に関してはネットニュースなどでも記事にもなっているのに、まったく気が付かなかったなぁ、反省。ただ、次戦についてはWBCが直々に、今回の試合の勝者に宮田ジムの所属選手との対戦を義務づけるよう指示があったようだ。というわけで、結局のところ次戦はポンサクレックvs内藤になる可能性が大らしい。ふ〜む、興行権(オプション)の話は公武堂TVでも話題になっていたけど、この辺のことはもっと勉強しないとなぁ…。