9/2 UKFジャパン「世界の格闘技 in 浅草」 半分だけど観戦記

格闘技界にも「どインディー」と呼ばれる存在があるのだ

昨今、格闘技の興行も縮小化し、小さい箱での興行も少なくない。だが格闘技の場合、どんなに小規模の興行でも「おしゃれ」をする傾向が強い、と僕は感じている。

それは「どういう事か」というと、格闘技の興行はどんなに小さい興行でも、出場選手の中には必ず何人かは有名な選手が出る傾向が強いし、小さい興行だと逆にアイデアを持ち込んだり演出を凝ってみたり等、結構頑張っちゃう印象がある。つまり格闘技界には、興行のマイナー感をムリに消そうとする文化があるように思うのだ。


その点、お隣のプロレス界には「どインディー」なる単語があり、そのマイナー感を逆にプレミアムにして「興行の売り物」とするという、非常に商魂逞しい一面がある。

近年におけるプロレスの「どインディー」を象徴する例を挙げるなら、それは666ユニオンプロレスにおける「メカマミー」の存在だろう。「ミイラ男をメカに改造」という、もはやプロレスでも何でもないレスラー。「メジャーになんかなれねぇ!」というサブカル的な気概がすら見えるギミックは、「少しでも『オシャレ』をしたがる」今の格闘技界からはなかなか出てこない発想だと思う。

「…おい待てっ!最終的に強さを追い求める格闘技の世界と、観客を喜ばせる事を第一目標としているプロレス界では、興行に対する発想の根底が全然違うから、一概には比べられないだろっ!」などの反論もあるだろうが、その話をしていると文章が長くなるので先に進める。


というワケで、僕は上記の文章にて「格闘技界には『どインディー』という発想は存在しない」というような事を書いてきたのだが…、結論から言うとこれは間違いで、格闘技界にも少なからず「どインディー」と名付けるに相応しい興行はいくつかある。そして僕の中で、その最右翼は「UKFジャパン」なる団体だ。

…というワケで、本日は彼らが主催する「世界の格闘技 in 浅草」なる興行を観戦すべく、浅草インディーズアリーナにへと足を向けた。ダメだ。この時点でもう格闘技界にはありえないくらいに「どインディー」だ。


「世界の格闘技 in 浅草」、この非常に素敵でナイスなタイトルがつけられた本日の興行。その内容は「キックボクシングの試合」を中心に、「柔術の試合」「カポエイラの組手」「サバット対決」などの格闘技が並べられた。挙句の果てには…一部では非常に有名な精龍會による、中国拳法家対決までもがラインアップされている。東武ワールドスクエア並だな。

格闘技の万国博覧と化した今回の興行、その開催場所は…浅草寺の裏にある「浅草インディーズアリーナ」。格闘技界にはあまり知られていない会場だが、まあ一言でいえばココは「水商売用の建物の中に、強引にリングを持ち込んだダケ」という非常にファンタジー溢れる箱である。逞しい、何かがとても逞しい。



ってなワケで今日は、全身の力を抜いて観戦する事にする。ちなみにこの日の僕は観戦前から非常に力が抜けており、まあだからでこそ「UKFジャパンを観戦する」という発想が出てきたワケだが、そのお陰で興行の半分を見逃したのは大誤算だった。いくらなんでも力が抜けすぎだな。

ちなみに僕がアリーナ(いや、アリーナじゃないんだけどさ)に到着すると、会場では超満員(六十人以上)の観客が次の試合をボンヤリと観戦していた。う〜ん、この希薄な空気は末期の全日本女子プロレスの地方会場から染み出ていた空気に似ているなぁ。素晴らしい。何かがとても素晴らしい。

第六試合 とにかく痛みばかりが伝わってくるのが空手という格闘技

フルコンタクト空手マッチ 2分2R
飛鳥一撃(ターザン後藤一派)
●大久保雄一(CLUB T.one's.B)
[1R 一本]
※中段下突き

この試合はフルコンタクトによる空手マッチ。生で空手を見るのは久しぶりだな。



体格でやや劣る大久保は試合開始早々に飛び膝蹴りを繰り出して観客を驚かせると、その後も飛び回し蹴りを連発する。だが飛鳥は接近しての中段突き連打からの右下段回し蹴りという連続技でダメージを与える。

「こりゃ勢いが全然違うや。飛鳥が勝つのは時間の問題かな?」と思いつつ僕がウーロン茶を口にすべく目を離した、その瞬間。「グウゥ!」という声が聞こえ、振り向けばそこには…うめき声を上げながら倒れている大久保の姿があった。審判の言葉によると、中段突きがフィニッシュだったようである。


ぬぬぅ、肝心な部分を見逃してしまったなぁ。…まあいいや、今日はそういうモノは求めてないしね。

第七試合 君はフランス紳士の護身術を知っているかっ!?

サバット(JAPAN SAVATE CLUB 提供) 対決
−高橋圭介(JSC)
−今村剛朗(JSC)
[勝敗なし]

フランス発祥の護身格闘技、サバット。サファーデとも呼ばれるこの格闘技は、ジェラルド・ゴルドーUFCに参戦した時の格闘技の肩書きとして有名。んで、この試合ではJAPAN SAVATE CLUBの面々がサバットのルール等を説明しつつ、デモンストレーションを行なった。へ〜っ、日本にもサバットの組織があったとはねぇ。



説明されたサバットの内容は以下の通り。競技者はツナギのようなコスチュームを身につけ、底の堅いシューズを履いてお互いを蹴りあう。雰囲気としてはキックボクシングに近い。ちなみに元々、サバットにはパンチがなかったのだが、あらゆる格闘技と交流しているうちにボクシングの技術を取り入れ、この時にパンチが解禁になったらしい。従ってサバットのルールでは、ボクシングに敬意を払う形で「裏拳」と「肘打ち」が禁止されているそうな。へ〜っ、「靴を履いて蹴り合う格闘技」だという事は知っていたけど、パンチのくだりは知らんかった。


さてさて、サバットにはライトコンタクト形式で行われる「アソー」と呼ばれる形式と、フルコンタクトで行なわれる「コンバ」と呼ばれる形式の二種類があるそうで、「『コンバ』はKOもあるけど地味だから…」という事で、今回は「アソー」によるデモンストレーションが行われた。

…のだが、そのデモを見る限りでは、正直キックボクシングとの違いはわからなかった。足先で変化する二段蹴りが「ちょっと変わっているなぁ」と思った程度かな。「シューズを履く」というルールの性質上、もっとトーキックとかサイドキックが多いと思ったんだけどねぇ。まあ今日はデモンストレーションだから、試合もこんなモノか。

第八試合(1) 龍老師の魂よ永遠に

中国拳法(精龍會中国拳法道場) 演武
佐久間正泰(酔拳)
瀬田竜生(秘宗拳)
佐藤正人(蛇拳/精龍會代表)

「実戦で使えない拳法は意味がない」という理念の下、「暗闇での闘い」「街の雑踏の中での闘い」「女を守る為の闘い」などのあらゆる状況を想定したルールで試合を行なう事で、一部で非常に有名な「闘龍比賽」。その主催者であり、精龍會中国拳法道場の主宰でにある龍飛雲老師が今年二月、腎臓病の悪化により死去。まだ51歳という若さだった。う〜ん、無限に広がる格闘技という世界の中でも「ファンタジー」の部分を担う重要な人物だっただけに、この急逝は残念だなぁ。



んで、リング上には龍老師のお弟子さんが三名ほど登場。それぞれ別々な中国拳法の形を披露した。



左は瀬田竜生先生の秘宗拳。中央は佐藤正人先生の蛇拳。右は佐久間正泰先生の酔拳。写真は小さくてピンボケしている上に静止画ではサッパリわからないだろうが、そこは心の目でカバーすればノー問題。



演舞が終わると、龍老師の写真を大事に抱えた藤田悦子氏(龍老師の奥様)がリングイン。生前の龍老師が残した想いを語った後、これからも精龍會を継続していく事を宣言、観客の万来の拍手を浴びていた。

うん。色々と大変だとは思うけど、これは素直に応援したいね。

第八試合(2) 龍老師の遺志を継ぐ者達

中国拳法(精龍會中国拳法道場) 試合
面無し 中国式オープンフィンガーグローブ装着 2分2R
佐久間正泰(酔拳)
−佐藤正人(蛇拳)
[勝敗なし]

さてさて、精龍會の出し物はこれでは終わらない。この後、酔拳の使い手である佐久間先生、蛇拳の使い手である佐藤先生が中国式のオープンフィンガーグローブを装着し、フルコンタクトの試合に挑んだ。佐藤先生曰く「老師が日頃から言っていた言葉に『実戦で使えない拳法は意味がない』というのがあります。我々はそれを実践していこうと思います」だそうで。



んで、酔拳 vs 蛇拳による試合が始まったが…、両者はその構えこそ中国拳法のソレだったが、繰り出される打撃は遠距離からのミドルキックばかりで、あまり拳法家同士の闘いには見えなかった。そんな中、酔拳の佐久間先生はヘッドスプリングを繰り返して観客を沸かせていたが、派手な動きを連発するあまり後半はかなり息切れの状態に。その佐久間先生が背面式ドロップキックを放ったところで時間切れ。


う〜ん。これはこれで彼らにとっては意味がある事なのだろうけど…。正直、この程度の試合をするくらいなら、僕はもっと往年のジャッキー・チェン映画のような闘いが見たかったなぁ。ま、観客は満足していたみたいだからいいんだけどね。

第九試合 ある意味、劇的な幕切れ

キックボクシング(ヒジ、組んでからのヒザ蹴りなし) UKF認定東洋フェザー級王座決定戦 3分5R
○寺尾新(TRDJ/元ボクシング 日本フライ級 二位)
●MASA(JET'S GYM/テコンドー カリフォルニア州三位)
[1R KO]
※MASAが左腕を負傷/MASAは1Rにダウン2/寺尾が新王者に

ってなわけで、「世界の格闘技 in 浅草」もあっという間にメインイベント。この試合はUKFが認定する東洋フェザー級王座の決定戦。新王座を争うのは、元ボクシング日本ランカーの寺尾新と、テコンドー・カリフォルニア州三位のMASA。ちなみにMASAは、あのベニー・ユキーデに師事していたらしい。へ〜っ。



んで試合は…、どうにも後味の悪い事になってしまった。

試合が開始すると、MASAはサイドキックを駆使してパンチを得意とする寺尾を遠ざけるも、いざ寺尾が積極的に前に出てくると、あっという間に防戦一方に。ボクシング仕込みのパンチを浴びたMASAはアッサリとダウンを奪われた。何とか立ち上がったMASAは、尚もパンチでプレッシャーを掛ける寺尾に裏拳を放つも、寺尾の勢いは止まらず。接近してワンツーや左ボディをバシバシと当てる寺尾、MASAは再び力なくダウンしたのだが…。

倒れたMASAの様子がおかしい。どうも右腕を負傷したらしい。呻くMASAの様子を見たレフェリーが慌てて試合を止めたが…、まともなリングドクターもいない状態での選手の負傷にスタッフはオロオロするばかり。仕舞にはMASAのセコンドがリングインし、「その程度でいつまでも倒れているな!」とばかりにビンタをかます始末。おいおいおいおい。



いや、まあ…。偶然のアクシデントとはいえ、こういうお祭り要素の強いイベントで、観客が引いてしまうような結果を出しちゃイカンよなぁ。せめてすぐに応急処置ができる人くらいは準備しておいた方がいいんじゃないの?



エンディング

最後は出場選手が全員でリングイン。主催者の人がマイクを持ち、今後も生前の龍飛雲老師との約束を果たすべく精龍會中国拳法道場と提携していく事、次回は来年一月に新宿FACEで興行を行なう事を約束していた。ふ〜む、新宿FACEでやるのかぁ。そうなると、この興行も少しは色気づいちゃうんだろうなぁ。



雑感

帰りは浅草では有名な釜飯屋「麻鳥」にて穴子の釜飯を食べた。上品で良い味でした。




釜飯屋「麻鳥」(ぐるなび)

http://r.gnavi.co.jp/g649101/


…えっ?「興行の感想は?」だって?
うるさいなぁ、こっちは釜飯が旨かったんだよ。無粋な事を言うなよ。
そういう事を求めるような観戦じゃないんだよ、今日は。


以上、長文失礼。