6/28 K-1 MAX 日本武道館興行(地上波) 簡易観戦記

影が薄かろうがなんだろうが、今年もトーナメントを開催

最近はブアカーオの独壇場と化し、それを一歩後でサワーが追い、この二人の後塵を魔裟斗などの選手が追う…という図式が定着してしまったK-1 MAX。最近は他の格闘技の騒動に隠れて影は薄くなっているけれど…、今年も世界最強を決定すべくトーナメントを開催。

んで、僕としては、今年もサワーと佐藤の活躍に期待しておりますです、ハイ。やっぱり、K-1 MAX出場前から見ている選手の方が、感情移入はしやすいしね。あとは…小さいのに頑張るザンビディスも応援したいね。

第一試合 シンデレラ・ボーイが経験不足を露呈っ!

スーパーファイト 3分3R + 延長3分1R
○TATSUJI(174cm/70.0kg/日本/アイアンアックス/K-1 WORLD MAX '07 日本予選 準優勝)
アンディ・オロゴン(181cm/70.0kg/ナイジェリア/チーム オロゴン)
[判定 2−0]

異国タイで地方王者にまで輝いた「スネーク」加藤督朗の指導の元、メキメキと実力をつけている元軍人のアンディ・オロゴン。身長も181cmと恵まれているアンディ、今日はアマチュア・ボクシング出身のTATSUJIに挑む。お互いにパンチが得意な者同士の対戦、というワケだな。


だが。この日のアンディは、常に距離を詰めてパンチを放つTATSUJIに大苦戦。ノーモーションの左ストレートでTATSUJIを遠ざけようとはするが、これ怯まずに接近してくるTATSUJIを捌く事ができない。気がつけば、その手数も極端に減ってしまった。恐らくは、自分が考えていた作戦とはまったく違う形で試合が進行していったのだろう。小比類巻戦では自分の闘い方を貫き通したアンディだが、今日はその戦法が崩れて「打つ手なし」って感じ。経験不足を露呈してしまったねぇ。まあ、これにめげずにまた練習すればいいさね。

対するTATSUJI、伏兵を相手に勝つには勝ったけれども、今回はKOを意識し過ぎたのか、攻めが随分と単調になってしまった印象。ボクシングじゃないんだから、もっと打撃を上下に散らさないとね。

第二試合 ライト級では最強でも、ミドル級の壁はかくも厚いっ!

スーパーファイト 3分3R + 延長3分1R
小比類巻貴之(180cm/70.0kg/日本/チームドラゴン)
●ツグト“忍”アマラ(171cm/68.6kg/モンゴル/フリー/2004年 全日本キック世界最強トーナメント 優勝)
[判定 3−0]

日本語も喋れるアマラだけれども、最近はすっかりモンゴル人扱い。ライト級では強豪だった彼も、二階級上のミドル級では大苦戦。この日も68.6kgという、ミドル級のリミットには程遠い体重で試合に挑む。う〜ん、もう何度も言われている事だけれど、やっぱりアマラがミドル級で闘うのにはムリがあるよなぁ。

対する小比類巻は、今年二月アンディ・オロゴン戦での惨敗劇からの復帰戦。まあ、あのルール(ヒジなし・首相撲なし)なら小比類巻が負けるのも頷けるんだけどね。っていうか、アンディがあんなにパンチが巧い選手だという事は想定していなかったのだろう。


んで、試合についてなんだけど…。ライト級時代のアマラの戦法って「序盤はジックリとスタミナを奪い、相手が弱ったところでモンゴル人特有のラッシュを仕掛ける」って感じなんだけど…。K-1 MAXでは、そんなアマラの姿を一度も見た事がないんだよなぁ。この日も、小比類巻の「下がりながら右ロー」といういたってシンプルな戦法を攻略できずに完敗。う〜ん、全日本キックのライト級には、身長が180cmもある選手なんていなかったし、「闘い方が判らない」って感じなんだろうなぁ。相手の懐にすら飛び込めないアマラなど、僕の知っているアマラじゃないんだけど…、まあミドル級では彼の実力はこれが限界なのだろう。

で、小比類巻については…。「ま、黒崎道場でローばっかり蹴っていたのも無駄じゃなかったんじゃねぇの?」って事以上の感想はないかな。この試合に関しては磐石だったね。

第三試合 「美しき死神」がK-1 MAXに降臨っ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
アルトゥール・キシェンコ(172cm/69.7kg/ウクライナ/キャプテン オデッサ)
イ・スファン(180cm/69.8kg/韓国/韓国体育館/K-1 WORLD MAX '07 アジア予選 優勝)
[3R 1分24秒 KO]
※左フック

ふ〜む。強いねぇ、キシェンコは。HAYATO戦を見た時から「いい選手だなぁ」とは思っていたけど、今日はその鬼のような強さを存分に発揮。特に序盤からブンブンと振り回していた、左のボディフックは強烈そのもの。それも、ワンツーや右ローの中に混ぜて放つから、対戦相手にしてみれば厄介な事この上ない。ボディを放つ事を意識するあまりにガードが下がってしまうのはいただけないが…まあ、あれだけプレッシャーが強ければ、並の選手じゃ反撃は難しいわな。

でもね。僕はイの方も結構、頑張ったと思うんだよね。キシェンコの左ボディフックをバンバン喰らいながらも、最後まで試合を諦めない姿勢は好感を持ったよ。今日は実力を発揮できなかったけど、こういう選手はまた使ってあげて欲しいね。

第四試合 文句なく、今大会のベストバウトっ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
マイク・ザンビディス(167cm/69.2kg/ギリシャ/メガジム)
●ドラゴ(175cm/70.0kg/アルメニア/チーム イッツ ショータイム)
[延長判定 3−0]
※本戦判定 0−0

ザンビディスの鉄の拳の連打と、ドラゴの超変則的な打撃の嵐が高いレベルでガッチリと噛み合った好勝負。両者ともに手数を緩めず、スタミナも落とさずにバキバキと殴り合う姿に観客は大歓声。結局、3Rでは決着はつかずに延長戦へと突入。観客は「名勝負の続きが、またまだ観れる!」とばかりに大歓声。う〜ん、こんな大歓声を聞くのは久しぶりだな。っていうか、テレビ放送が3Rからだったのが本当にもったいない。こんな試合こそ、1Rから放送して欲しかった。

そして、延長戦になってもパフォーマンスの落ちない両者。遠距離からローや膝蹴りを放つドラゴ、至近距離からフックを連発するザンビディス。「う〜ん、こりゃあ甲乙つけ難いなぁ」と思っていたら、後半はザンビディスの手数が目立つようになる。んで、これが決定的な差となり、判定の結果3−0でザンビディスが勝利。いや〜っ、試合終了直前のザンビディスの執念は凄かった。


んで、この試合を見て感じたのは。「正直、山内裕太郎(全日本キック スーパーウェルター級王者)は…まだまだ世界には遠いなぁ」って事かなぁ。ま、単純な話、急なオファーだったとはいえドラゴに五回もダウンをさせられた山内が、このレベルにはついて行けないだろう、というのもあるんだけど…。それ以上に、昨年は名勝負を連発していた山内の試合よりも、この試合のレベルは遥か上だった事が大きいなぁ。正直、昨年の山内のベストバウトである白虎戦と、この試合のレベルを比べると…やっぱりこの試合の方が、一枚も二枚も上手だと思っちゃったんだよねぇ。


っていうワケで、皆さんにも比べていただけるよう、山内 vs 白虎の動画をば。

山内裕太郎 vs 白虎(前編)

山内裕太郎 vs 白虎(後編)


いや、改めて見ると…、これはこれで名勝負だな(笑)。ルールも違うし、比べ難い部分もあるわな。でもまあ、少なくともK-1ルールでは、山内は「世界とやれるレベル」ではない気がするね。

第五試合 何ぃ、日本最強?この人は、昔から世界最強の一角ですがなっ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
佐藤嘉洋(184cm/69.9kg/日本/フルキャスト/名古屋JKF/K-1 WORLD MAX '06 & '07 日本予選 優勝)
●デニス・シュナイドミラー(170cm/69.7kg/ドイツ/Feuer sports/K-1 WORLD MAX '07 東欧予選 優勝)
[判定 3−0]

まあねぇ、身長差が約15cmでしょ。佐藤にしてみれば「組みし易い事、この上なし!」だよねぇ。得意の奥足へのロー(今回は左ロー)が何度も爆発、右足にダメージを負ったシュナイドミラーは棒立ち状態。テレビ放送は3Rのみだったけど…この展開を見れば、1R〜2Rもどういう内容だったかは想像できる、というかねぇ。

ってなワケで、今宵も佐藤は完璧なる判定勝利を修めた。まあ、内容自体は一から十まで「佐藤の試合!」って感じだね、3Rしか見てないけどさ。

第六試合 二ヶ月で三試合をこなす「SBの大黒柱」、今日は強豪を相手に秒殺っ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
アンディ・サワー(172cm/71.0kg/オランダ/シュートボクシング オランダ/K-1 WORLD MAX '05 優勝 & S-CUP2002 & 2004 覇者)
オーレ・ローセン(177cm/70.0kg/デンマーク/アンテイムド)
[1R 2分7秒 KO]
※右フック

う〜ん、僕はサワーの試合前には、いつヒヤヒヤするんだよねぇ。

顔はどこか頼りないし、体はミドル級でやるにはちょっと小さいし、序盤はポカする事が多いし。たとえ今回の対戦相手が、S-CUP 2004の舞台でTKOで破っているローセンだとしても…試合前の体格差とかを見ると、やっぱり僕は「今日のサワーは、ダメかも…」と思ってしまうんだよね。ましてやサワーは今回、減量に失敗している事もあって、僕は「こりゃあ、今日という今日は本当にダメだな…」と思っていたんだよね。


それだけに、クロスカウンターの右フック一発でローセンを沈めた時は大いに驚いたのと同時に、心底ホッとしたよ。特にこの日のローセンはテンカオを非常に有効に使っていただけに、「こりゃあ、長引くとサワーは苦しくなるな」と思っていたんだけどね。芸術的な一撃によるKO劇、本当にお見事でした。

それにしても、最初は「SBの外敵」だったサワーも、今ではすっかり「SBの大黒柱」だなぁ。頼もしいよ。ま、緒形健一や宍戸大樹が超えなくてはならない「壁」である事には変わりはないけどね。イヤ、緒形は超えたんだけどさ。

第七試合 気合いの入ったK-1 MAX初代王者は、かくも強いのかっ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
アルバート・クラウス(175cm/69.5kg/オランダ/チーム スーパープロ/K-1 WORLD MAX '02 優勝)
ヴァージル・カラコダ(178cm/69.9kg/南アフリカ/ウォリアーズMMAアカデミー)
[判定 3−0]

延長ながらも大激闘となった第四試合は3Rからの放送だったが、こちらの激闘は最初から最後まで放送。う〜ん、テレビ局がどういう判断でこういう放送になったのかがイマイチ読みきれん。この試合を少しカットしてでも、放送すべき試合は他にもあったと思うんだがなぁ。


今日のクラウスは何かが違う。序盤から気合いの入った表情でカラコダを追い続け、接近すればパンチを連打し、締めに強烈な右ローを放つ。対するカラコダは、伸びる上に素早い左ストレートを軸として、積極的にクラウスとの打ち合いに応じたが…、こちらはローを使わずにパンチ一本で勝負に出た。

んで、この試合は「ローの使用の有無」が、そのまま勝敗に結びついた感じ。1R〜2Rは手数で上回ったカラコダだが、3Rは左足にダメージを負い機動力を失ってしまう。クラウスは更なる右ローを打ち続けると、3R終盤に強烈な右ストレートを叩き込む。解説の畑山隆則氏も思わず「うおおおぉぉぉ〜っ!」と叫ぶ一撃が決定打となり、判定で見事にクラウスが勝利した。


今日のクラウスについてなんだけど、気合いが入っていたばかりではなく、体にも張りがあったように思うなぁ。以前よりも、筋肉がアップしていたように見えたし。肉体改造に成功したのか、それとも悪魔の力に頼ったのかは知らないけれど、今日くらいのパフォーマンスを出す事ができれば、K-1 MAXの中心人物として復活する日も遠くない気がするね。そういう意味では、次戦は真価が問われる一戦になるだろう。

第八試合 絶対王者が余裕の勝利っ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
ブアカーオ・ポー・プラムック(174cm/69.9kg/タイ/ポー プラムックジム/K-1 WORLD MAX '04 & '06 優勝)
ニキー・ホルツケン(何故か身長未発表/69.3kg/オランダ/ゴールデン グローリー/K-1 WORLD MAX '07 西欧予選優勝)
[判定 3−0]

この試合は3Rのみの放送だったが、この時点でホルツケンはヘロヘロの状態。ブアカーオが何を効かせて、この状態にもっていったのかはサッパリ判らない上、3Rはブアカーオがムエタイよろしく判定勝ち狙いで手を抜いていた為、こっちとしては「ブアカーオが無難に勝利を得た」という情報以上の事は何も書きようがない、というかねぇ…。

ダメだなぁ、こんなテレビ放送の仕方してちゃあ。これなら全ラウンドをダイジェストで放送した方が、まだ判り易いってモンだよ。

第九試合 今宵のK-1 MAXのエースは、HERO'S王者に圧勝っ!

K-1 WORLD MAX '07 一回戦 3分3R + 延長3分1R
魔裟斗(174cm/70.0kg/日本/シルバーウルフ/K-1 WORLD MAX '03 優勝)
●J.Z.カルバン(173cm/70.0kg/ブラジル/アメリカン トップチーム/HERO'Sミドル級トーナメント '06 王者)
[判定 3−0]

テレビ放送では、魔裟斗の試合にしては珍しく入場のシーンはなし。演出を切り詰めてでも放送したい試合が多かった…って事だな。その姿勢やよし。


試合では、序盤はカルバンが大振りながらもシャープな打撃で思わぬ強さを発揮するも…、魔裟斗の右ローに対して対策を練らなかったのはマズかった。ジワジワと右ローを効かされたカルバンは徐々に動きが落ち、1R終盤には魔裟斗のラッシュを喰らってしまう。

んで、あとは一方的な展開。足が使えなくなったカルバンに対して…魔裟斗は左ミドル、アッパー、フック、テンカオをこれでもか!と言わんばかりに浴びせ続ける。カルバンが非常に打たれ強く、ガードも固かった為にダウンこそ奪えなかったが、あのアグレッシブなカルバンが棒立ちになっていたのだから「さすがは魔裟斗!」と言わざるを得ない。2R中盤には首相撲からカルバンを投げ捨てた魔裟斗、組んでからの展開で力負けしなかったのも、魔裟斗が圧勝した要因だろう。


ってなワケで、今宵はHERO'S王者から判定勝利を奪った魔裟斗。前回のローセン戦でも見せた「上中下に散らす打撃」は健在で、今回はさり気なくテンカオを連発してカルバンのスタミナを奪い続けた。パンチ主体の戦法からオールラウンダーに変わりつつある魔裟斗だが…、やっぱり同質の強さを身につけたブアカーオに勝てる気がしないんだよなぁ。せめてパワーで、ブアカーオを上回ればいいんだけどねぇ。

雑感

序盤を放送しない試合が多くて残念な部分はあったけれど、全体的にはいい試合が続いて非常に面白かった。その中でも、特にザンビディス vs ドラゴは突出した面白さ。う〜ん、全試合放送でなかった事が本当に惜しいなぁ。


ただ、冷静にトーナメントを見てみると、番狂わせのような事はなかったね。順当な白星というか。アリ・グンヤー、ダニエル・ドーソン、ヨードセングライ・フェアテックス、ビッグベン・ケーサージムといった選手が参戦していれば、また別な展開もあったように思うんだけどね。まあ、K-1 MAXとしては「今の選手で充分!」って事なんだろうなぁ。

ああ、K-1 MAXの裏で、これらの選手が集まるトーナメントを開催してくれる団体はないかなぁ…。


以上、長文失礼。