S-CUP決勝戦

第十試合 「列の一番後ろにいた男」がS-CUPの頂点へ

S-CUP 2006勝戦 3分3R + 延長3分2R
○緒形健一(172cm/69.9kg/日本/シーザージム/SB日本スーパーウェルター級 王者)
アンディ・サワー(173cm/62.95kg/オランダ/シーザージム オランダ/チーム サワー/S-CUP 2002 & 2004 覇者)
[判定 3−0]
※緒形がS-CUP 2006を制覇/サワーは1Rにダウン1

「列の一番後ろにいた男」vs「列の前で待つ大きな壁」

長かったS-CUP、5時間半に渡る激闘も残るはあと一戦。決勝に残ったのは、どちらもSBのエース。アンディ・サワーと緒形健一だ。


この二人は過去に一度、対戦している。サワーはS-CUPの準決勝で足を負傷していた土井広之に圧勝し、同年9月の興行では後藤龍治を激闘の末に撃破。当時の日本人エースを次々に倒したサワーは2002年11月4日、最後の砦となった緒形と闘った。結果は無残、試合中に緒形は計四度のダウンを喫して判定で惨敗。

この後、緒形はもう一人の外敵であったシェイン・チャップマンにも完敗。本調子ではない土井、善戦する後藤に比べて緒形は五体満足ながらもひどい負け方をする事が多く、僕は当時の緒形を「SB外国人天国を加速させただけ」「外敵退治の最後尾に回ってしまった」と厳しく評した。我ながら厳しいな。


そんな苦い初対決から丸四年。あれからサワーはもう一度S-CUPを制覇し、K-1 WORLD MAXで優勝を遂げ、SB世界スーパーウェルター級王者にもなった。存在感も強さも確実にアップしたサワーだが、緒形もまたあの時の緒形ではない。S-CUP 2006の決勝で実現した両者の再戦、あの時は「列の一番後ろにいた男」が「列の前で待つ大きな壁」に挑む。

試合の内容

1R、まずは距離を取る両者、緒形はジャブや前蹴りで前に出ようとするサワーを牽制。様子見モードのサワーは時折ワンツーや左ボディブローを放つも、ここまで手数は少ない。暫くは静かな展開が続いたが、終盤に試合は動く。サワーの強烈なワンツーが緒形にヒット、緒形もワンツーやボディブローを返す。お互いのパンチが交差する中、このラウンドはこのまま終了するかに見えた。

だが、事件はラウンド終了直前に起こった。サワーが放った右ストレートをかわした緒形、カウンターの右ストレートを放つと、これがクリーンヒット。教科書に出てきそうなくらいに綺麗な一撃を喰らったサワーは一発でダウン。スロースターターのサワーは1Rにダウンを喫する事が多いが、ここまでのカウンターを喰らってのダウンはちょっと珍しい。観客もまさかのシーンに騒然となった。いや〜っ、これは面白くなってきたっ!


2R、サワーが少しギアを上げる。ワンツーを連発する緒形に対し、サワーは前に出てローキックを連打。緒形のストレートをダッキングするサワーは尚も左右のローキックを放つも、緒形も前に出てワンツーで真っ向勝負。終盤にはテンカオでサワーを攻める緒形、サワーの右ストレート〜左ボディブローを喰らっても、ワンツー〜ハイキックを返していく。緒形の素晴らしい健闘ぶりに、次第に会場内に「緒形優勝!」ムードが高まっていく。


3R、さらにサワーがギアを上げた。前に出て強烈なワンツーや左ボディブローを振るうサワー、しかし緒形は反対にワンツーを叩き込む。しかし失点のあるサワーはこんな事には怯まずローキック、左ボディブロー、ワンツー〜ローキック、そしてハイキックと上中下に打撃を放つ。緒形はクリンチでサワーをやりすごす。中盤、更にプレッシャーを強めたサワーはラッシュを仕掛けていくが、緒形はガードを固めつつ前蹴りで距離を離すと、今度は真正面からワンツースリーとパンチを返す。力強い緒形の姿に観客からは歓声が沸く。

いよいよ試合は最終盤。勝負に出たサワーはラッシュを連発して緒形を倒そうとするが、緒形はクリンチと真正面からのパンチでサワーのプレッシャーをやり過ごす。会場に万来の緒形コールが鳴り響く中、最後はサワーと正面から殴り合って試合終了。観客の大歓声の中、緒形は両腕を上げてこの声援に応えた。


判定の結果は3−0。S-CUP 2004での秒殺劇から二年、「列の一番後ろにいた男」がついにS-CUP 2006の頂点に立った。観客もまた、緒形の勝利を大歓声で祝福。師匠のシーザー会長もまた涙を流して緒形のS-CUP制覇を喜んでいた。

緒形の優勝コメント(スポナビから引用した文章を一部修正)

今日は終わったにも関わらず、大勢のお客さんに残っていただき、ありがとうございます!(観客歓声)


言いたいことはたくさんあるのに頭が真っ白で整理できてないんですが、まず僕を生んでくれた母親と父親に、今日は山口県から来てくれてるんでありがとうございました。僕は怪我が多くてドクターストップも三度ほど言われたんですが、自分が全てだと思って、仲間たちが支えてくれてシュートボクシングを続けてきました。それからファンの皆さんには肝心なところで負けても応援し続けてくれたことを感謝しています。それからシーザー会長には17歳の時から15年間、体を痛めながら悪者になって、憎まれ役になって叱咤激励してくれたかと思うと本当に感謝の言葉がありません。ありがとうございます。


今日の相手はみんな強かったです。宍戸は殴りたくなかったんですけど、本気で来たので僕も本気で殴りました(観客笑)。アンディも本当に強かったです。S-CUPの後の人生は考えてなかったんですけど、優勝したのでもっと強い相手と戦っていきたいと思います。


僕たちシュートボクシングは命がけで今の時代にはないものを追いかけていると思いますので、会長も言いましたが、次の世代につかんだものを伝えていきたいと思います!(観客歓声)

サワーの準優勝コメント(スポナビから引用した文章を一部修正)

今日はあまりいい結果が出せませんでした。今年は二回も負けてしまいハードな一年でした。緒形選手におめでとうと言いたいと思います。
シーザー会長、シュートボクシングのみなさん、ありがとうございました(観客歓声)。

※以上、下記リンクの文章を一部修正

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/fight/other/live/200611/03/a12.html

アンディ・サワー、そして緒形健一についての総括

今回のサワーはトーナメント中に二度もダウンを喫してしまった。K-1 MAXでの試合に加えて、昨年から今年にかけてはSBでも精力的に試合をこなしたサワーに一日三試合はちょっとキツかったか。特に緒形戦でのダウンは、普段のサワーからはちょっと考えられない失態だ。

反対に言えば、それだけ過酷な道を歩んできたにも関わらずキッチリと準優勝するのだから、やはりサワーの実力は凄いと言わざるを得ないね。一回戦はマルフィオ・カノレッティとの激戦を制し、準決勝戦ではダニエル・ドーソンとの神経戦に勝利したサワー、「緒形に敗れて準優勝」ではなく「カノレッティ、ドーソンを破って準優勝」なのだから、この結果には堂々と胸を張って欲しいね。


そして緒形だが、ダマッシオ・ペイジとの一回戦では体力を消費せずに勝利を飾り、宍戸大樹との準決勝戦のでも極力スタミナを消費しない闘いぶりを見せたのが、そのままサワーとの体力差となって優勝に繋がった。また決勝戦では1Rに奪ったダウンによるアドバンテージを有効活用。終盤はサワーのラッシュを流すような闘いぶりを見せたものの、クリンチと正面からの激突を上手く使い分けたのが結果に結びついたと思う。

とにかく今日の緒形は、試合全体を通して「出る時は出る、下がる時は下がる」という緩急の付け方が上手かった。ベテランならではの闘いぶりだね。優勝、おめでとうっ!


さて、これを踏まえた上でのこれからの緒形の展望だが、緒形にはあまりK-1 MAXには進出して欲しくない、というのが正直なところかな。既に三度もドクターストップがかかっている緒形、これ以上は過酷な闘いに足を踏み入れて欲しくない、というかねぇ。もしK-1 MAXで闘うとしても、宍戸のようにいきなりブアカーオ・ポー・プラムック戦…という事ではなく、まずは以前に不本意な負けを喫した武田幸三との決着戦を見たいねぇ。

SBでの試合については、それこそ緒形がリベンジしなくてはいけない選手は一杯いる。あえて誰か一人に絞るのであればイム・チビンかな。後輩の宍戸が勝利している相手だしねぇ。