9/23 SB 後楽園ホール興行 観戦記

Mask_Takakura2006-09-23

S-CUPへ、ファイナルカウントダウン!

本日は後楽園ホールSB(シュートボクシング)を観戦。


いよいよ11/3のS-CUP開催が迫ってきたSBだが、今回は日本人代表選手の選考するカードが編成された。セミファイナルでは「キラーロー」土井広之と「もう一人のSBの新日本人エース候補」菊地浩一が世代闘争を行い、メインイベントでは「SB魂の継承者」緒形健一が「正道魂」大野崇との一番に挑む。S-CUPを前にして、SBでは珍しい日本人同士の潰し合いが中心となった今大会、他にも長年SBを陰で支えてきた「闘う広報」森谷吉博の引退試合もあり、内容は非常に富んでいると言えるだろう。


尚、S-CUPについての情報だが、今回は「SB vs K-1 MAX」がテーマとなる。SB側としては前回優勝のアンディ・サワー、前回準優勝の宍戸大樹が出場、K-1 MAXからの刺客としてはイアン・シャファーとスティーブ・カラコダの出場が決定。SBを背負ってこのメンバーに割って入る日本人は果たして誰になるのか?その行く末に注目しよう。


チケット購入、疲れていたので立見ではなくC席を買ってみた。金4500円也。観客の入りは満員。ここ最近のSBにしてはかなりテーマの見える興行なだけに、今日の観客はチケットを買いやすかったのだろう。

目の前のご馳走が遠のいていく…。

1000円のパンフレットを購入、いつものように対戦カードの確認をしていたが…、今日は内部では激しいカード変更があったらしく、パンフの内容は実際のカードとは違うものが記入されていた。印刷の差し替えが間に合わなかったのだろう。


で、驚いた。


パンフには今日のメインイベントとしてアンディ・サワー vs ゲンナロン・ウィラサクレックという超豪華カードが記述されていたのだ。「K-1 MAX & S-CUPの覇者」 vs 「豪州ボクシング王者の強豪ムエタイ戦士」、その肩書きだけでも身震いする程の凄いカード。もしサワーが負傷欠場する事なくこのカードが実現していれば、キックマニアはどれだけ狂喜乱舞した事だろう…。


う〜ん、この一戦がお流れになったのは残念だ、本当に残念だ。SB関係者殿、近い将来このカードは必ず実現させてください。期待してます。

第一試合 いよいよシュートボクセ・アカデミー・ジャパンからプロ選手が登場

スターティングクラスルール スーパーライト級 2分3R
中島弘貴(176cm/63.5kg/シュートボクセ アカデミー ジャパン)
野畑圭介(175cm/63.65kg/風吹ジム)
[2R 1分20秒 KO]
※ヒザ蹴り

最近のSBは前座を2分3R制にした為、以前よりもサクサク進行するようになった。それでも興行時間は、何故か四時間を超えてしまう事が多々なのだが。んで、これがデビュー戦となる中島弘貴シュートボクセ・アカデミー・ジャパン所属。いよいよプロ選手が出てきたのね。


試合では、1Rから接近して組み付こうとする野畑をワンツーで突き放してペースを握った中島が、2Rに上段のヒザ蹴りを野畑に叩き込んだ。この一発で野畑は失神、観客の歓声の中で中島が戦慄のKO勝利を飾った。


大味なりに鮮やかなKO劇だな。中島、お見事。

第二試合 投げ技を狙いすぎるとSBでは勝てない

スターティングクラスルール ヘビー級 2分3R
○岩下雅大(188cm/体重未発表/龍生塾)
●井上俊介(174cm/体重未発表/フリー)
[判定 3−0]

井上俊介の所属についてだが、ページによってフリーだったり吉田道場所属だったりでマチマチ。困ったモノだが、彼が柔道出身である事は間違いない。


試合では、井上は柔道出身者らしく組み付いての投げを狙うが、岩下は距離を置いてのワンツー、ローキック、組み付いてのヒザ蹴りで攻めてペースを握る。打撃がヒットし続けた井上はラウンドが進む毎に疲労を隠せなくなる。投げも不発で八方塞りの井上を岩下が休まず攻め続け、判定3−0で勝利した。


「投げを狙いすぎるとSBでは勝てない」、コレはSBの常識。

第三試合 森谷が消えても、Sバンタム級の火を絶やすな

スターティングクラスルール Sバンタム級 2分3R
○中森保孝(170cm/54.7kg/シーザージム)
●鈴木友則(167cm/53.4kg/湘南ジム)
[判定 3−0]
※中森は3Rにシュートポイント2

SBではあまり盛んではない軽量級の試合だが、その階級は今日引退する森谷吉博と同じSバンタム級。彼ら二人のうちどちらかが将来、森谷の持つベルトを巻く事になるかもしれないな。


試合。全般を通して距離を取ってキックを放とうとする鈴木に対して、中森は前進しながらのストレートやミドルキックで攻める。試合を有利に進めたのは中森、要所でストレートをヒットさせて鈴木を後退させた。

迎えた3R、鈴木のパンチにより顔面から流血する場面もあった中森だが、このラウンドもミドルキックを中心に攻める。終盤、防戦一方となる鈴木に中森はバックドロップ一閃、シュートポイント2を獲得。これが決め手となり、中森が判定3−0で勝利を修めた。


ちなみに中森は森谷と同じシーザージム所属。先輩のベルトを巻く日は来るのかな?

第四試合 オレの名前を言ってみろ

フレッシュマンクラスルール スーパーウェルター級 3分3R
○山口太雅(176cm/69.35kg/寝屋川ジム)
ケンシロウ(170cm/68.75kg/モンゴル/新東金ジム) ※バダムガラフ・バルジンニカムから改名
[判定 3−0]

この試合からは本戦の扱い。という事で、試合前にはオープニングセレモニーが行なわれた。緑のレーザー光線が飛び交う演出はなかなかに鮮やかだ。で、この試合にはモンゴル出身ながらケンシロウを名乗る男がリングに登場、だが入場曲は「愛をとりもどせ!」ではなかったので拍子抜け。寧ろ、山口太雅の入場曲の出だしで、神谷明が「ケンシロウ!お前はもう、死んでいる」と言っていたのが可笑しい。


1R、ケンシロウはモンゴル戦士らしく大振りなパンチを連打出しながら前進。その圧力に観客からも驚きの声が上がったが、山口は前蹴りで距離を置きローキック、ミドルキック、左ストレートで少しずつこれを崩していく。山口は2R中盤から首相撲からのヒザ蹴りを多用、一気に試合のペースを握る。ケンシロウは山口の多彩な攻めに対応できずに苦戦。

迎えた3R、山口は序盤こそケンシロウのパンチで出血し苦戦したが、その後のケンシロウのラッシュをしのぐと、終盤は疲れを見せたケンシロウ首相撲からのヒザ蹴りとストレートを何発もヒットさせて勝敗を決した。

試合終了、判定の結果3−0で山口が勝利。


難敵を退けた山口、その強さはもうフレッシュマンクラスルールで収まるところではないだろう。もう一つ上のステージでの試合を観てみたいね。

第五試合 戦慄の裏技が炸裂

エキスパートクラス特別ルール(ヒジあり) 60kg契約 3分3R
○石川剛司(170cm/60.0kg/シーザージム/SB日本フェザー級 一位)
●サッグサーコン・ルークマトゥリー(173cm/57.8kg/タイ/SKVアラビアジム)
[2R 44秒 KO]
※小外掛け

SBの絞首刑人」石川剛司。代名詞にもなっているスタンディングスリーパーと当たりの強い打撃で白星を重ねファンの人気を得るも、裏ではKOした相手をまたいだり寝ている相手にローキックを加えたりでやりたい放題。識者の中には彼の存在に眉をひそめる者も少なくない。今日の対戦相手は、「ムエタイの怪物」の一人であるテーワリットノーイも所属するSKVアラビアジムのサッグサーコン・ルークマトゥリーだ。


1R、サッグサーコンがムエタイ独特の「のらりくらり」とした動きを見せる。常に遠距離をキープし続けて自分からは仕掛けないサッグサーコン、石川がパンチを入れるべく前に出ればジャブや前蹴りで牽制し、距離が離れると右ローキックを放つ。石川はなかなか自分の打撃を出せずに苦戦、さてどうする?

2R、サッグサーコンは1Rと同じく「のらりくらり」、このラウンドからは肘打ちも使用、ますます厄介な状態に。すると石川は、ロープを背にするサッグサーコンに強引に組み付き、体重を浴びせた小外掛けでサッグサーコンを押し倒す。そして…。

この投げで、なんとサッグサーコンはグッタリと倒れたまま起き上がれない程にダメージを負った。恐らく倒れた際に、エプロンの硬い場所に後頭部を打ちつけたのだろう。レフリーは慌ててカウントを数え始めたが…、サッグサーコンに立つ気配なし。観客が騒然とする中、石川が思わぬ裏技で勝利を手にした。


うわっ、危ねぇ。最期の小外掛けは「前方への投げ」でありSBでは反則とはならないけど、後頭部に打撃を加える行為をルールが許しているっていうのもどうなんだろ?こういった攻撃はルールで制限すべきだと思うんだがなぁ…。

謝れば済むような話じゃないよ、マジで…

休憩を挟んでリング上に登場したのは、今大会を欠場したアンディ・サワー。「(日本語で)コンニチワッ…、sorry、コンバンワッ!」と挨拶した後、今日の興行を欠場する事を謝罪し、S-CUPには必ず出場する事を観客の前で約束した。

う〜ん。正直サワーのS-CUP参戦以上に、予定されていたアンディ・サワー vs ゲンナロン・ウィラサクレックが流れてしまったのが無念だなぁ…。

意外なリングアナが登場

休憩を挟んで「♪シぃ〜ザぁ〜ッ、シぃ〜ザぁ〜ッ!」と、いつものようにシーザータイムが始まる…事はなく、今日はそのまま第六試合に突入。SBはこのところ「ケロちゃん」こと田中秀和リングアナが後半の進行を務める事が多かったが、今日は違うリングアナが立っている。


「只今よりっ!」


おっとこの耳にビリビリくる声は…、元RINGS・現HERO'Sの古田信幸リングアナじゃないですかっ!観客はそのあまりの声の大きさに騒然。そういえばSBでRINGSルールの試合をやった事もあったっけねぇ。

第六試合 これは最初で最後の観戦になるとはなぁ…

エキスパートクラス特別ルール(ヒジなし) 57kg契約 3分3R
○森谷吉博(170cm/58.5kg/シーザージム/SB日本Sバンタム級 王者)
●マイク・ボードウィン(168cm/58.5kg/アメリカ)
[判定 3−0]
※森谷は3Rにシュートポイント1

この試合は「戦う広報」森谷吉博の引退試合…なのだが、実は僕はSBを観戦して五年になるが、森谷の試合を観るのはこれが初めてなのだ。というのも、彼はなかなか首都圏で試合をする事が少なかったのだ。恐らくはウェルター級 〜 ミドル級が中心層のSBにあって、バンタム級というのは軽すぎて対戦相手を探す事ができなかったのだろう。

いずれにせよ彼は今日、引退する。その最後の対戦相手は無名のアメリカ人、マイク・ボードウィン。ここは是非、KOによる勝利を期待しよう。


1Rからローキックをコツコツと重ねる森谷に対して、ボードウィンはキレのある左ストレートやミドルキックで反撃。このラウンドはお互いに距離を取っての打撃戦に終始した。

だが2R、森谷は1Rと同じく内に外にとローキックを連打すると、ボードウィンの動きが止まり足を気にし始める。後ろに下がるボードウィンを追い詰めた森谷はラウンド終了直前に右フックを叩き込む。観客は大歓声で森谷の攻勢を支持。ボードウィンの足は相当に効いている。森谷のKO勝利が現実味を帯びてきた。

3R、勢いに乗る森谷はローキックを連打してトドメを刺しに行くが、ボードウィンはワンツーやミドルキックを放って抵抗。距離を詰めらない森谷を後押しすべく、観客からは森谷コールが発生。これに応えた森谷は鮮やかな首投げを決めてシュートポイント1を獲得。観客から大歓声が沸く中、森谷はアッパーやボディブローで最後までボードウィンを攻め続けた。


試合は残念ながら判定までもつれたものの、3−0で文句なく森谷が勝利し自ら有終の美を飾った。


内に外に蹴り続けるローキックはいかにもシーザージムらしい攻めだった。最後はKOで倒して欲しかったが、まあ首投げも炸裂したし観客も満足してるし御の字ですな。

森谷吉博の引退セレモニーは壮大に

試合終了から程なくして、森谷の引退式が始まった。

まずは今までの功を労うべく有名人の友達が多数駆けつけた。修斗佐藤ルミナ、現在はPRIDE武士道を主戦場とする桜井"マッハ"速人、天才と謳われた元新日本キック小野寺力といった格闘技界の大物が次々に登場。これだけでも会場は大いに沸いたが、それ以上に盛り上がったのがCHEMISTRY川畑要が登場した時だ。どういう人脈もってるんだっ!?

ちなみに松井大二郎も花束を手渡していたが、この時は観客はまったく沸いてなかった。いとあわれ。


んで、最後に登場したのは…やはりこの人。「♪シぃ〜ザぁ〜ッ、シぃ〜ザぁ〜ッ!」、テーマ曲にのって師匠のシーザー武士会長が登場。それまでは笑顔だった森谷も、師匠と抱擁を交わしてからは師匠の涙につられるように泣いていた。師弟愛ここにあり。

シーザー会長のコメント(スポナビから引用)

私の教え子の中でこれほど最低の弟子はいませんでした(観客笑)。練習は大嫌い(観客笑)、夜の遊びは大好き(観客笑)、お酒が大好き、女は大好きなんですけど…その前につぶれる(観客爆笑)。

これほど辞めろといった選手はいません。それでも彼は、辞めずに十五年ついてきました。最近の若者にはいません、大したもんだと思います(観客拍手)。

「これからは日本一のマネージャーを目指せ」と言いました。華がある時だけが人生じゃない、一生を通じて何を残せたかが大事なんじゃないかと思います。森谷はこれからも日本一のマネージャーを目指していきますので、ぜひ応援してやってください(観客拍手)。

シュートボクシング協会は世のため人のためになる若者を育てていきます。打たれても打たれてもひるまない、負けじ魂、シーザー魂を見せていきます(観客拍手)。

森谷の引退コメント(スポナビから引用)

今日で引退ということなんですが、みんなに感謝を述べさせて頂きたいと思います。

自分を生んで育ててくれた父ちゃん、母ちゃん。ジムの仲間たち、僕のことを育ててチャンピオンにまでしてくれたシーザー会長。そしてファンのみなさん、スポンサーのみなさん。いつもシュートボクシングを応援してくれる皆さん、本当にありがとうございます(観客拍手)。

今日で引退しますけど、僕が青春を懸けてきたシュートボクシングをこれから一生を懸けて世界に羽ばたかせていきたいと思いますので、よろしくお願いします(観客拍手)。

※以上、下記リンクの文章を一部修正

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/fight/other/column/200609/at00010713.html


やがてリングが暗くなり、スポットライトを浴びながら森谷は静かに引退の10カウントゴングを聞いた。


正直、森谷という選手には思い入れがない。何せ今日、観戦するのが初めてだしなぁ。

しかし、観客の彼への声援、引退という事を聞いて駆けつけた人物達を見るにつけ、その人望の厚さはヒシヒシと伝わってきた。正直、第二の人生については何も心配する事はないだろう。たとえ彼はつまずいたとしても、紹介するのに十五分以上は掛かった友人達の誰かが彼を助けてくれると思うね。もちろん、森谷にはそれに甘える事なく、シュートボクシングを世界に羽ばたかせて欲しいなぁ。特に最近のSBは外国人招聘ルートが以前より弱くなっている気がするから、まずはそこから着手して欲しい。


なんにせよ…森谷選手、本当にお疲れ様でした。


森谷吉博
2006年9月23日 引退
生涯戦績 23戦15勝8敗1分3KO

第七試合 突きつけられた現実

エキスパートクラスルール(ヒジあり) スーパーウェルター級 3分5R
菊地浩一(175cm/69.6kg/寝屋川ジム/SB日本ウェルター級 二位)
●土井広之(172cm/70.0kg/シーザージム/前SB世界ウェルター級 王者)
[判定 3−0]
※菊地は2Rにダウン1

この試合からは本日のメインイベント、その第一試合はS-CUPを前にして突如発生した世代闘争。「キラーロー」土井広之と「もう一人のSBの新日本人エース候補」菊地浩一による対戦だ。

かたや長年、SBの日本人エースの一人として団体を支えてきたベテラン。かたや最近、”Shinobu”ツグト・アマラを撃破し勢いに乗る新鋭。SBではS-CUP 2004を前に勃発した土井広之 vs 後藤龍治以来の「日本人エース同士による対戦」、この闘いに勝利してS-CUP出場へ一歩前進するのはどちらか?


この試合で、両者の差がハッキリとした形で現れた。


基本的には同じ展開が続いたのでダイジェストで。お互いの打撃が五分だったのは1Rの序盤だけで、その後はずっと菊地のペースで試合は進んだ。やや大振りな左右のストレートと重い左ローキックを繰り出しながら休むことなく前に出続け、組み付けば首相撲からヒザ蹴りを連打する菊地。対する土井は防戦一方。反撃もできずにガードを固めながらキックの間合いをキープすべく後退し続けるが、距離を詰めてパンチを繰り出す菊地を前に得意のキラーローも不発。「これが昔、SBのエースと呼ばれた選手なのだろうか?」と思うくらいに、その姿が弱々しい。

それでも2R、土井は前進する菊地にカウンターの右ストレートを叩き込んでダウンを奪ったが…、土井の有効な打撃はこの一撃のみ。菊地はこのダウンに怯む事なく前進を続けて打撃を繰り出し続けた結果、ラウンドが進む毎にパンチがハードヒットする機会が増えていった。また左ローキック、首相撲からのヒザ蹴りも有効打となり、土井は4Rから露骨に失速。菊地はアマラを苦しめたスタミナを発揮、5Rになっても攻撃の手を緩めずに攻め続けた。対する土井は棒立ちで、いつダウンを採られてもおかしくない状態だ。

試合終了、判定の結果は全員が48−47。2Rのダウンもなんのその、3−0のストレートで菊地が勝利した。


土井についてだが…正直、予想通り。このところは無名選手を相手に連勝を重ね、前回はSBルールでムエタイ王者を撃破した土井ではあるが…、その試合ぶりを観るにつけ代名詞となっているキラーローの衰えは顕著だった。この試合ではそのキラーローすら菊地に完封されての完敗。かつての日本人エースも大きな節目を迎えたと言っていいだろう。

対する菊地だが、自分から攻める時、はやるあまりに打撃が大振りになるのが難だけど、左ミドルキック一辺倒だった以前の試合運びと比べてると随分と良くなった。今回は前進を続けてキラーローを封じ、自分の打撃で試合を進めることができたのが勝利に繋がっているように思う。これでもう少し落ち着きが出るようになれば、更に強くなるだろう。


んで、この試合を経験した上でのS-CUPへの展望だが…、完勝ではあったがKO勝利ではなかった事、昨年後半〜今年前半に掛けてスランプに陥っていた事などを考えるにつけ、この一戦に勝利した菊地がそのままS-CUPへの出場権を獲得する事はないだろうなぁ。恐らくはリザーバーくらいで落ち着くんじゃないかな?

第八試合 S-CUPの前哨戦?そんな事はどうでもいいんだよっ!

エキスパートクラスルール(ヒジあり) スーパーウェルター級 3分5R
○緒形健一(180cm/70.9kg/シーザージム/SB日本Sウェルター級 王者)
●大野崇(172cm/71.0kg/unit-K/ISKA世界ミドル級 王者)
[判定 3−0]

本日のメインイベント、第二試合は魂の対決。今宵「SB魂の継承者」緒形健一のS-CUP進出を阻むのは、「正道魂」大野崇。緒形は前回のS-CUPで「負傷により一回戦敗退」という屈辱を味わっているだけに、今回のS-CUPには並々ならぬ想いを秘められているだろう。

対する大野もS-CUPへの参戦を熱望、緒形を倒せばその権利を一気に自分も袂へ引き寄せる事ができるだろう。そしてこの二人は、お互いに闘いの中に魂を込めるタイプの選手。激戦となるのは必至だと言える。


そして…、実際にその試合内容は、お互いの魂が激突する死闘となった。


1R、大野はステップを駆使してリングを回り、遠距離からリーチ差を活かしてワンツー、得意の左ミドルキック。緒形が接近すれば膝蹴りを放ってダメージを与える。対する緒形は、大野が苦手とするローキックを多用しつつ様子を伺う。終盤、緒形は接近してワンツーや右ストレートを放つ。喰らった大野は大きく仰け反り、緒形は尚もローキックとストレートを叩き込んでいく。

2R、右のジャブを連打して緒形との距離をとる大野、ステップも駆使して容易に緒形を近づけない。う〜ん、ここまで自分のリーチを活かした闘い方をする大野を観たのは始めてかも。対する緒形は、自らは殆ど手を出さずに大野の打撃を防御しつつ前進を続ける。こちらはベテランならではの省エネファイトだな。

中盤、大野をコーナー際に追い詰めた緒形は、一気に爆発するかのようなワンツーのラッシュを大野に浴びせる。観客から驚きの声が上がる中で、大野の顔面がどんどん真っ赤になっていく。ピンチを迎えた大野だが前蹴りで緒形の顔面を襲うと、飛び膝蹴りやワンツーを放って反撃、容易に緒形のペースに捕まらない。今日の大野は明らかに以前よりも強くなっている。


3R、緒形は相変わらず自らはあまり手を出さず、時折ローキックを放ちながら大野との距離を詰めていく。対する大野はリングを回りつつ右ジャブで緒形の動きを牽制し、左ミドルキックでダメージを与える。緊張感のある攻防が続く中、緒形は中盤に組み付いての投げを放つもシュートポイントには至らず。

そして終盤、ついに大野を追い詰めた緒形がラッシュを仕掛ける。しかし大野は、これに応えるかのようにラッシュで逆襲。お互いのパンチがブンブンと交差する派手な展開に観客が大歓声を上げる中、大野のワンツーが緒形にヒット。しかし緒形は「もっと来い!」と挑発すると、尚もラッシュを仕掛ける大野にワンツーをヒットさせる。これは凄い試合になってきたなぁ。

ここで3Rが終了、緒形と大野はお互いを認め合うようにハイタッチ。観客が男気あふれる二人のやりとりにドッと沸く。


4R、大野はこれまで以上にステップワークを駆使、インとアウトを繰り返しながら膝蹴りやワンツースリーと打撃を放つ。もちろん、緒形が自ら接近して来れば右ジャブで牽制。対する緒形はプレッシャーを掛けながら前に出るも、なかなか大野を追い詰める事ができない。それでも終了直前、大野をコーナー際に追い詰めた緒形は強烈なワンツーのラッシュを浴びせる。しかし大野はガードを固め、容易にクリーンヒットを許さない。

5R、認め合う両者の抱擁からラウンドは始まり、ここでついに緒形が勝負に出る。これまで以上にプレッシャーを強めて大野に接近、積極的に組みついて投げを放っていく。対する大野は尚も下がって距離を稼ぎながらワンツーや左ミドルキックを繰り出すも、緒形の接近はまったく止まらない。

そして中盤、緒形はワンツーをクリーンヒットさせると、ここから一気にラッシュを仕掛ける。大野もこれに応戦したが、パンチが的確に顔面を捉えていたのは緒形。気がつけば大野の顔面からは出血が。一度はドクターチェックで水入りとなるも、再開後も緒形はダメージの大きい大野に右ストレートを叩き込むと、尚も容赦のないラッシュを喰らわせる。大野は立っているのもやっとの状態となったが、最後までダウンだけは拒み続けた。


観客が大きな拍手で二人の健闘を称える中で試合は終了。判定は最後のラッシュが大きな差となり緒形が3−0で勝利。マイクを握った緒形は大野の大健闘を心の底から称えつつ未来の再戦を約束。そして自らの目標がS-CUPである事を表明し「シュートボクシングの総力戦を見に来てくださいっ!」という一言でこの興行を締めた。


いや〜っ、まずは大野の成長に驚いたっ!今までは正直、長い四肢と恵まれた体格を活かしきれていない試合ぶりが目立っていて「もったいないなぁ」と感じる事が多かったが、この日の大野は長身選手のお手本のような闘いぶりを披露したといえるだろう。欲を言えば、ゆっくりとダメージを与える左ミドルキックの他にも一発で相手を仕留める打撃も欲しいが、まずは一皮剥けた彼のファイトぶりに惜しみない賞賛を贈りたい。

だが、この試合に勝ったのは緒形。今日は打撃を放つ事なく相手にプレッシャーを掛けるというベテランの味を見れたし、一転してのラッシュ時の力強さも見事。今日の試合を含めて、今年一年は負けなしで駆け抜けた緒形。先の試合に出場した二人を含めてもS-CUPに出場する権利があるのは、文句なく緒形だろうね。


そう遠くない未来で引退する事を表明している緒形、彼の最後のS-CUPでの活躍に期待したい。

雑感

全八試合だったにも関わらず、時間はいつも通りに4時間超え。しかし試合内容はバラエティに富んでいたし、森谷の引退式もなかなか豪華だったし、それ程には長さを感じる興業ではなかったように思う。さすがはSBといったところだね。

それにしても、セミは見事な世代交代劇だったし、メインは文字通りの激闘だった。僕の満足度は非常に高い…のだが、それだけにパンフレットに載っていた幻のカードがお流れになったのは痛いなぁ。


アンディ・サワー vs ゲンナロン・ウィラサクレック」


実現すればキック界を震撼させるこのカード、S-CUPでの実現はあるのかっ!?


以上、長文失礼。