3/19 全日本キック 後楽園ホール興行 観戦記

我ながらテンション高いなっ!

うおおおおおぉぉぉぉぉっ!

あの「感動の惨敗劇」から約5ヶ月、ついに「伝説の興行」が今日、復活する!今日は後楽園ホール全日本キック「日本 vs タイ 五対五マッチ」開催されるのだ。イヤイヤ、これは楽しみ。いやがおうにも盛り上がる、というものだ。

今日は「ハッピーエンド」を迎えるのか?救いようのない絶望的な「全敗劇」に終わるのか?それとも「まったく体験した事がないようなエンディング」になるのか?いずれにせよ…僕は今、溢れ出る期待を抑える事ができないっ!


…と書いたところで、「なんなの、それ?」と思う人の方が多いのだろう。そんな人はここから下を読んで欲しい。長いよ。

前回の「日本 vs タイ 五対五マッチ」のあらすじ

  昨年10月14日に後楽園ホールにて開催された「日本 vs タイ 五対五マッチ」。その名の通り「日本人とタイ人が五対五で激突」する企画で、全日本キック連盟は前田 尚紀、金沢 久幸、藤原 あらし、山内 裕太郎、山本 元気の五名という磐石の布陣でウィラサクレック フェアテックス軍団(以下、WSR軍団)に挑んだが…。


  先鋒戦。「全日本キック フェザー級四天王」の一人である前田 尚紀が、カノンスック フェアテックスに2Rの間に五度のダウンを奪われてKO負け。実力者である前田の完敗劇に、会場内には早くも戦慄が走る。


  次鋒戦では「ベテラン」金沢 久幸がクンタップ ウィラサクレックと対戦。だが実力差は歴然、金沢は何度もダウンを奪われる。終盤、起死回生のハイキックを叩き込み奇跡のダウンを奪うが、結局は五度のダウンを奪われ惨敗。


  「日本人二連敗」、後がない状況の中で「この人は勝つだろう」と思われていた「全日本バンタム級 王者」藤原 あらしが中堅戦に出場。だがワンロップ ウィラサクレックは恐ろしいスピードの右ストレートと右のヒジ打ちを叩き込み、藤原は初となるKO負けを喫した。「全日本キックが誇る精鋭達が次々にKO負け」という事実を前に、観客は騒然。


  会場に悲壮感が漂う中、副将として出てきた「全日本ウェルター級 王者(当時)」山内 裕太郎が、「豪州ボクシング王者」ゲンナロン ウィラサクレックと互角の激闘を展開。普段は淡々と試合をこなす山内が、気迫を前面に押し出すファイトを展開し、会場内には熱気が戻ってくる。山内は惜しくも判定で敗れたものの、その素晴らしい試合ぶりに観客からは惜しみない拍手が贈られた。


  「日本人四連敗」もなんのその、山内の大活躍で高調した観客の前に現れたのは「全日本フェザー級 王者(当時)」山本 元気。「日本キック界フェザー級最強の男」はコムパヤック フェアテックスを相手に序盤から強烈なパンチでダウンを奪う。この一方的展開を前に、観客も大歓声で後押ししたが…。

  「奇跡の死神」が舞い降りる。コムパヤックの起死回生のヒジ打ちで、なんと元気が大出血!会場内の空気が「終わり良ければすべて良し!」から「日本人全敗」へ一気に転落。観客から「マジかよーーーっ!?」だの「ウソだっ!ウソだと言ってくれーーーッ!?」だのといった絶叫や悲鳴が交差する。

  悲劇的状況の中、元気は失態を挽回すべくフル回転でコムパヤックを襲う…が、結局は出血が激しくなりTKO負け。「日本人全敗」という事実を前に呆然とする観客、リングの上ではその神経を逆撫でするかのように、WSR軍団の陽気なオヤジが喜び勇んで踊ってた。


  さて、この事実だけ見れば「この日のファンは"全日本キックは弱い"という『絶望感』と共に、静々と後楽園ホールを去っていった…」というような感傷的な光景を想像するであろう。


  だが実際はさにあらず。この興行を目撃したファンは、もちろん前述のような『絶望感』も持っていたが、同時に「ムエタイは本当に強いし奥も深い」という素直な『尊敬の念』や、「日本人選手だって、次やれば勝てるかもしれない。山内や山本ならイケる!」という『未来への希望』も持ち合わせていた。


  『絶望感』『尊敬の念』『未来への希望』。これら「3つの感情」は複雑に絡み合い、最終的には『奇妙な満足感』という形で昇華され、非常にいい気分で後楽園ホールを後にしていた。ハッキリ言って、こんなに「いい気分」を味わえた興行はザラにはない。現にあの興行を観戦した関係者の多くが、昨年のベスト興行としてこの興行を取り上げているくらいだ。


  そんな「伝説の興行」の続編だからこそ、今日はテンションが高いのである。

さ、いつまでも過去の話で盛り上がっている場合じゃないぞ!

今回の「日本 vs タイ 五対五マッチ」だが、全日本キック連盟は山本 元気 & 山本 真弘の「W山本」を筆頭に、「自分大好き」石川 直生、「下がらない魂」サトル ヴァシコバ、そして「野良犬」小林 聡という「前回以上の最強の布陣」で挑む。う〜ん、勝つ気満々な面々だ。対するWSR軍団のメンバーの中には、前田を秒殺したカノンスックや、藤原をKOしたワンロップの名前が。う〜ん、これはまったく気が抜けない。今回は日本は何勝できるのかねぇ…、それともまた全敗か?

客入りは…、ズバリ言って超満員。っていうか、前回興行の噂が噂を呼んだのか、この日の興行のチケットはとにかく売れに売れた!どれくらい売れたか…というと、普段は当日券しか出さない立見席を先行発売してしまうくらいである。凄いな。僕もどうにかして立見席を購入、4000円。パンフレットも購入、こちらは1000円。安いねぇ。

オープニングファイト第一試合 デビュー戦なのに攻め疲れなかったのは見事

ライト級 3分3R
○野間一暢(170cm/60.6kg/JMC横浜GYM)
渡部太基(173cm/60.6kg/藤原ジム)
[2R 2分5秒 KO]
※3ダウンによる

両者共にデビュー戦。1Rからミドルキックを連続で放つ野間、近づいては首相撲からヒザ蹴りを連打、休まず攻める。渡部はストレートで応戦するも野間の勢いに押され気味。2Rになっても攻め疲れなかった野間がパンチの連打で立て続けに3ダウンを奪って勝利。

オープニングファイト第二試合 ローキックで対戦相手を切り崩す試合は好きです

ミドル級 3分3R
守屋拓郎(181cm/71.8kg/町田金子ジム)
●横澤浩史(175cm/71.8kg/S.V.G.)
[2R 2分18秒 KO]
※3ダウンによる

1Rから徹底してローキックを放つ守屋、横澤はワンツーで応戦するが…ローキックが効いてしまいラウンド中盤から足を引きずり始める。これを見た守屋は2Rもローキックを連打、踏ん張りが利かなくなった横沢は成す術なく3ダウンを奪われてしまった。

オープニングファイト第三試合 小さいのに本当によく頑張りました

バンタム級 3分3R
大野修司(158cm/53.1kg/ムサシノクニ)
●菊地慧(167cm/53.5kg/藤原ジム)
[判定 3−0]
※菊池は3Rにダウン1

圧倒的に背の低い大野だが試合では大健闘。1Rは菊池の大味なストレートの連打を喰らいながらも、インアウトを繰り返しつつミドルキックを叩き込んでいく。2R、大野は出入りしながらボディ、フック、ストレートを次々にヒットさせると後半はローキックの連打。菊池は要所要所でパンチを当てたが後半は防戦一方に。

3Rには小さな大野がフル回転、ミドルキックとローキックで一発狙いの菊池の動きを止めると、首相撲からのヒザ蹴りでダウンを奪う。終盤は攻め疲れたが、最後まで打撃を繰り出し続けた大野が判定3−0で勝利。

開会式なんて普段やってないじゃん!

今日は本戦開始前に「日本 vs タイ 五対五マッチ」の開会式が行われた。五対五マッチに出場する全選手が入場、藤原ジムの藤原 敏男代表が挨拶を行った。

「皆さん、こんばんわ。
 昨年の五対五マッチではタイ人が圧勝し、日本人は全滅しました。
 しかし本日、皆さんご存知の通り、WBCで日本が宿敵 韓国に圧勝しました!(観客歓声)
 選手の顔を見てください!今日は死ぬ気でやります!そして勝ちます!(観客歓声)
 最後まで熱い応援、よろしくお願いします!(観客歓声)」

いや〜っ、ビシッと締めてきたねぇ。昨年末にリングの上で大酒飲んで藤原 喜明、初代タイガーマスク、鈴木 みのるにボコボコにされた人と同一人物とは思えん(苦笑)。

第一試合 人のいう事は聞くものです

67.5kg契約 3分3R + 延長3分1R
○大輝(178cm/67.1kg/JMC横浜GYM/全日本ウェルター級 七位)
●北野ユウジ(175cm/67.5kg/ソーチタラダ渋谷/J-NETWORKウェルター級 二位)
[判定 3−0]

ここまで7戦7勝5KO、絶賛売出中の大輝が1Rから得意のミドルキックを放つ。北野も同じくミドルキックで対抗するが、威力に優っていたのは大輝。

2Rからはローキックの連打に趣旨替えした北野に対し、大輝はミドルキックで確実にダメージを与えつつ大振りなパンチを連発する。このパンチは北野の動きが落ちたのを見てKO勝ちを意識したのだろうが…あんなに大振りでは当たるものも当たらない。

3Rもセコンドの声をも無視してミドルキックの中に大振りなパンチを混ぜる大輝。北野が反撃できなかったので一方的な展開ではあったのだが…ダウンは奪えず。判定の結果3−0で大輝が勝利。


う〜ん、この大輝の攻めは雑だなぁ。もっと打撃を上下に散らせばダウンを奪えたかもしれないのに。

第二試合 陰の実力者、今日はピタリとハマッた!

バンタム級 3分3R + 延長3分1R
寺戸伸近(166cm/53.3kg/BOOCH BEAT/全日本バンタム級 一位)
●割澤誠(168cm/53.5kg/AJジム/全日本バンタム級 二位)
[1R 1分1秒 KO]
※3ダウンによる

チームメイトの「元全日本バンタム級王者」平谷 法之が勉学に励む為に引退(噂だけどね)。山本 優弥は仲の良い石川 直己が所属する青春塾へ移籍した為、BOOCH BEAT 唯一の生え抜き選手となった寺戸 伸近。実力は充分だが「何でも出来る器用なタイプ」な為、普段は目立たない事が多い彼だが、今日の試合では多くの観客がその存在を強く認識する事となった。

試合開始早々から寺戸が仕掛ける。パンチで接近しつつ、強烈なローキックで割澤の意識を下に向けると、強烈な左ストレート〜右ストレートのコンビネーションでいきなりダウンを奪う。観客が驚きの声を上げる中、反撃のストレートを繰り出す割澤が更にローキックを放ったところに、カウンターの右ストレートがヒット。またしても割澤はダウン。

あとはもう一方的な展開。ダメージの残る割澤をコーナー際へ追い詰めた寺戸は、強烈なパンチの連打で割澤から三度目のダウンを奪ってKO勝ち。鮮やかな秒殺劇に観客が大歓声を上げる。


寺戸の秒殺劇は、対戦相手の割澤がダウンしても積極的に前に出た事が大きいように思う。全日本キックではバンタム級の試合はなかなか組まれないだけに、五対五マッチの影響で満員になったこの日、割澤にも「思うところ」があったのだろう。

だが、この試合の主役はあくまで寺戸。KO勝ちこそ少ないものの、最近の試合では相手に何もさせずに判定勝ち、昨年12月にはルンピニーでタイ人を相手にKO勝ちを修めた。つまり技術的には非常に高い選手である事は明白なのだ。その活躍からは「目を離すな!」と言いたいね。

第三試合 逆転の芽はあったように思えるのだが…

全日本スーパーウェルター級王座決定トーナメント 一回戦 3分3R + 延長3分1R
○濱崎一輝(171cm/69.3kg/シルバーアックス/全日本ミドル級 二位)
●佐藤皓彦(182cm/69.5kg/JMC横浜GYM/全日本ミドル級 八位)
[判定 3−0]
※佐藤は2Rにダウン1 濱崎が準決勝進出

本日の興行は五対五マッチばかりが売りではない。前座では「全日本スーパーウェルター級 王座決定トーナメント」の一回戦も行われるのだ。その第一試合は、強烈なパンチを武器に持つ濱崎 一輝と、2/18に行われた同トーナメントのリザーブマッチで長身を生かしてヒザ蹴りを多用し、勝利を掴んだ佐藤 皓彦が対戦。


1R、濱崎は11cmのリーチ差を埋めるべく積極的に距離を詰めて強烈なパンチを連打、試合のペースを握る。佐藤は下がりながらミドルキックやローキックを繰り出すも…ここまでは濱崎に押され気味。

2R、試合の図式は「距離を離して佐藤がミドルキック vs 距離を詰めて濱崎がパンチ」。中盤、濱崎のストレートがクリーンヒットし佐藤はダウン。劣勢に立たされた佐藤は一発逆転を狙って大振りなヒジを連発。濱崎はこれをかわしつつ、フックやパンチの連打をヒットさせ攻勢。

だが3R、序盤にフックを当て勢いに乗る濱崎に対し、佐藤はガラ空きになったボディに得意の右ミドルキックを叩き込む。一撃で濱崎は失速。反撃のチャンスを得た佐藤は、クリンチを狙う濱崎にヒザ蹴りを連発し試合のペースを握ると、再びミドルキックやストレートを連発する。だが濱崎を攻めきる事はできず、ピンチをしのいだ濱崎が終盤、佐藤のミドルキックに合わせてパンチを連打して反撃する。

試合終了、判定は3−0で濱崎が勝利。


横で見ていたnar氏(id:nar-_-nar)曰く「佐藤、あれじゃダメですよ。上半身に打撃を集め過ぎ。打撃を上下に打ち分ければガードを崩せるのに」とボヤく。確かに3R中盤の佐藤の打撃は非常に単調で、徐々に濱崎に見切られていった。素人意見だけど、序盤も含めてローキックをもう少し使った方が、得意の右ミドルキックが生きた気がする。第一試合の大輝といい、この試合の佐藤といい、どうもJMC横浜GYMの若い衆は血気盛んになるあまり廻りが見えなくなる傾向があるなぁ。

第四試合 トーナメントの大本命、磐石の強さ!

全日本スーパーウェルター級王座決定トーナメント 一回戦 3分3R + 延長3分1R
山内裕太郎(180cm/69.8kg/AJジム/前全日本ウェルター級 王者)
●小松隆也(180cm/69.9kg/建武館/全日本ミドル級 六位)
[3R 2分20秒 KO]
※3ダウン 山内が準決勝進出

「全日本スーパーウェルター級 王座決定トーナメント」の一回戦、第二試合には「ウェルター級の『鉄壁の牙城』」「前全日本ウェルター級 王者」である山内裕太郎が登場。う〜ん、僕としては彼にも五対五マッチに出場して欲しかった。ゲンナロン・ウィラサクレックとの一戦は、昨年の全日本キック五本の指に入るほどの名勝負だったしねぇ。


1R、距離をあけてローキックを散発する小松に対し、山内は同じく遠距離からミドルキック、ボディブロー等で反撃、終盤はローキックを連発。スロースターターの山内、相変わらず1Rは大人しい。

2R、山内がいよいよ目を覚ます。徹底したローキックの連打で小松の動きを止める。小松もローキックで反撃するも、手数で圧倒的に山内に劣る。ならばと、小松はローキックに合わせてカウンターのワンツーを放つ。しかし山内はしっかりとブロック、小松が前に出ようとすると細かいジャブで牽制。打つ手のなくなった小松の手数が落ちると、山内はワンツーとボディブローを連打する。見た目には地味だが小技の効いた山内の攻めが随所で冴える。

3R、後がない小松は積極的に前に出てワンツー〜ローキック、前蹴り、ボディブローを繰り出すが、山内はボディ〜ワンツー〜ローキックというコンビネーションで反撃すると、中盤からは封印してきたヒジ打ちを連打。小松のガードを切り崩すと、続けざまに強烈な左アッパー〜右ストレートを叩き込みダウンを奪う。この時点で勝負あり。立ち上がった小松だがダメージはアリアリ。山内はパンチのコンビネーションを次々に叩き込み、あっという間に三度のダウンを奪ってKO勝利を手にした。


山内のコンビネーションには「様式美」がある。とにかく上中下の打ち分けが圧倒的に巧いのだ。「トーナメントの大本命」は、歓声の中で今日も淡々としながらも圧倒的な実力で勝利を修めた。いや〜強い、実に強い!

第五試合 出来る男は仕事が早い!

日本 vs タイ 五対五マッチ 先鋒戦 58kg契約 3分5R
山本元気(166cm/57.9kg/DEION GYM/全日本フェザー級 一位、前王者)
●カノンスック・フェアテックス(160cm/57.7kg/タイ/ルンピニーSバンタム級 九位)
[1R 2分44秒 KO]
※左ボディブロー

さあ!さあ!ここからは「日本 vs タイ 五対五マッチ」の開幕だ!気合を入れていこう!


その先鋒戦で激突するのは、前回の五対五マッチでは大将を務めた山本 元気と、前回も先鋒を務めたカノンスック・フェアテックスの二人。山本は前回の逆転負けの悔しさのあまり、今回は自ら先鋒戦を志願したという。カノンスックは「戦う修行僧」前田尚紀を簡単に蹴散らした男、山本は勝つ事ができるのか?


山本は試合開始と同時にフルスロットル。積極的に前に出てワンツースリーフォーとパンチを小気味良く、しかし圧倒的な破壊力を秘めて放っていく。更にはミドルキックも連打、今日の山本は序盤から倒す気満々。対するカノンスックもミドルキックで対抗するが、山本の圧力に押されている。

完全に試合を支配した山本、ガードの上がったカノンスックに強烈なボディブローを連打。最後もワンツースリーフォーでガードを上げ、がら空きになった胴に強烈な左ボディブロー一閃。マウスピースを吐き出したカノンスックはその場で悶絶、立ち上がる気配なし。五対五マッチの幕開けとしては「最高の形」、山本らしい戦慄のフィニッシュシーンに観客は大爆発し、暫くの間歓声と拍手が鳴り止まなかった。


それにしてもあの前田尚紀をいとも簡単に倒したカノンスックを、いとも簡単に倒してしまうとはねぇ…。山本が凄いのか、あるいはカノンスックが調整不足なのか?いずれにせよ今日の山本はハンパでなく強かった。これなら、かつて惨敗したゲーオ フェアテックスとの再戦も観てみたい!

第六試合 自分に酔えない夜

日本 vs タイ 五対五マッチ 次鋒戦 59kg契約 3分5R
石川直生(175cm/58.8kg/青春塾/全日本Sフェザー級 王者)
●デッドゥワン・ポー・ヂャルンチャイ(170cm/57.7kg/タイ/元ルンピニーSフライ級 九位、現Sフェザー級)
[判定 2−0]

「日本 vs タイ 五対五マッチ」の次鋒戦には、自他共に「自分大好き」を認める石川 直生が登場、今日もけれん味たっぷりにリングインし、天井に向かって水を噴く。ナルシズムの塊のような入場だが、モデルもこなす程の美形の石川。しかし実は、既に26戦17勝8敗1分8KOの戦績を持つベテランでもあるのだ。今日は自身初となる公式戦でのムエタイ越え。「未知のムエタイ戦士」デッドゥワン ポー ヂャルンチャイを相手に試合後の自分には酔えるのか?


1R、まずはデッドゥワンが牽制のストレートを放つ。強烈で、スピードも早く、体重も乗っている。更にはミドルキックやフックも駆使して攻勢。石川はローキックや組み付いてのヒジ打ちでなんとか反撃するも、圧力に押されて試合は劣勢。何とかしたいところだが…。

2R、デッドゥワンは1Rとは一転。下がりながらミドルキックと前蹴りを連発するばかりで、まったくのやる気なしモード。ひょっとして拳を怪我したのか?石川はチャンスを迎えたが…、下がり続けるデッドゥワンを攻めきれない。距離を離されるばかりで中距離からローキックを放つのが精一杯の状態。石川得意のヒジ打ち、ヒザ蹴りは、接近しないと始まらない武器。石川、如何ともし難い。

そして、この膠着は試合終了まで続いた。デッドゥワンはひたすら石川の打撃を「いなしたり、流したり」するばかり。時折は右ミドルキックを放ったが、これも前に出る石川を牽制するためのもの。対する石川はジャブとローキック以外の有効な攻めがない。積極的に前に出て攻め続けたが、ガードの堅いデッドゥワンを崩せない。更には…ラウンドが進むとデッドゥワンがクリンチを多用した為、試合は益々単調なものに。う〜ん、観る側にとってはなんとも厳しい展開だな。

迎えた5R、石川は状況を打破すべく強引に接近してヒジ打ちやヒザ蹴りを狙っていくが、デッドゥワンは軽く捌いてリングの中を逃げ回る。もう試合として成立していない状態、レフリーはデッドゥワンにイエローカードを出しても良かったんじゃないの?

試合は終了、判定の結果2−0で石川が勝利したが…。こんな「ムエタイ越え」では喜べるわけもなく、石川は周りから見てもハッキリわかる程に意気消沈。


う〜ん。石川が気の毒で掛ける言葉も見つからない、というか。さすがの「自分大好き」もこれじゃ美酒に酔えないよねぇ…。

第七試合 キミはもっと出来る選手のハズだ

日本 vs タイ 五対五マッチ 中堅戦 63kg契約 3分5R
△サトル・ヴァシコバ(170cm/62.7kg/勇心館/WFCA世界Sライト級 & 全日本ライト級 王者)
△シンバード・シットバンク(172cm/62.8kg/タイ/元ルンピニーSフェザー級 十位、現ライト級)
[判定 1−0]

「日本 vs タイ 五対五マッチ」の中堅戦。「日本人二連勝」ながらも、第六試合のせいで微妙な空気になった会場に現われたのは「下がらない魂」サトル ヴァシコバだ。若々しいビジュアルと軽いキャラクターとは裏腹に、どんなに打たれても自ら下がる事はなく打ち合うスタイルで今年1月4日に伝統の全日本ライト級の王座を獲得した男である。対戦相手は、これまた「未知のムエタイ戦士」シンバード シットバンク。


試合は序盤から激しい打ち合いに。1R、まずは先制の裏拳を放つヴァシコバ。シンバードはハイキックで反撃しつつ、大振りなヒジ打ち、ミドルキック、前蹴りでヴァシコバの動きを牽制。しかしヴァシコバは下がらない。どんどん前に出て距離を縮め、得意の左ストレートをシンバードの顔面にバシバシと入れていく。終盤にはワンツーがクリーンヒット、アッパーも繰り出して攻勢。やや劣勢のシンバード、首相撲で流れを断ち切ろうとする。期待にたがわぬ打ち合いに、第六試合でダレていた観客が活気を取り戻す。

2R、シットバンクは首相撲を連発し次々にヒザ蹴りを繰り出す。この攻撃に手を焼くヴァシコバ、中盤には投げ捨てられる場面も。だがヴァシコバは前に出て左ストレートを立て続けにヒットさせると、ボディブロー等も駆使してシンバードを崩す。シンバードはヒジ打ちで反撃してもヴァシコバは裏拳でお返し。パンチで押し気味に試合を進めるヴァシコバに会場から大声援が飛ぶ。


しかし、両者が打ち合ったのはここまで。


3Rからは…再三の首相撲からのヒザ蹴りが効いてしまったのか、拳を怪我したのか…ヴァシコバが失速。前に出てもパンチを出せなくなったヴァシコバ、攻撃の中心をローキックに切り替える。反対にシンバードは、中距離から右のミドルキックを連打し、至近距離では首相撲からのヒザ蹴りで徐々にペースを掴んでいく…が。

4R、今度はヴァシコバのローキックが効いてきたシンバードが失速。序盤の勢いがなくなった二人だったが、手数に優ったのはシンバード。3Rと同じく右のミドルキックと首相撲からのヒザ蹴りで主導権を奪う。

だが5R、攻め疲れもあったのか…シンバードは更に失速。組みに行ってはヴァシコバを捕まえ、力なくヒザ蹴りを連打する場面が増える。あまりにも組みに行く場面が多く注意まで受けたシンバードだが、ヴァシコバはこの掴みを捌く事ができない。結局、そのまま試合は終了。

判定は何故だかヴァシコバがジャッジ一人の支持を受けるも、残りの二人はドロー裁定。僕としてはどう見てもシンバードの勝ちでいい内容だと思うのだが…、5Rの注意が減点対象になったのか?


それにしても、ヴァシコバの失速の原因は何だったんだろ?スタミナが切れたようには観えなかったんだよなぁ。多分、腕か拳を怪我した為のものだと思うのだが…。いずれにせよ、2Rまでは攻勢だっただけに非常に残念だ。是非、再度の挑戦を望みたいところだね。

第八試合 野良犬の明日は?

日本 vs タイ 五対五マッチ 副将戦 62.5kg契約 3分5R
○ヨードクングライ・ノーンカムジム(170cm/61.1kg/タイ/元ルンピニーバンタム級 六位 & 現ライト級)
小林聡(170cm/62.5kg/藤原ジム/WKA世界ムエタイライト級 王者)
[2R 28秒 TKO]
※小林が眉間をカット

「日本 vs タイ 五対五マッチ」の副将戦には、「野良犬」小林聡が満を持して登場。前回の「日本 vs タイ 五対五マッチ」には出場していなかった小林だが、「全日本キック」で「ムエタイへの挑戦」と来れば小林の名前はハズせないのだ。2001年9月7日の後楽園ホール、当時のラジャダムナンスタジアム・ライト級の現役王者だったテーパリット シットクグォンイムをKOで下した男が、再びムエタイと対峙する。

久々に表舞台に立った小林、この試合に掛ける意気込みを聞かれれば「いや、オレはどうせセミだから」と後輩の山本真弘に向かってエールを送る…イヤ、本音かもしれん(笑)。師匠の藤原会長は「今回は小林が負けて4勝1敗」と太鼓判(笑)。その対戦相手は、またまた「未知のムエタイ戦士」ヨードクングライ ノーンカムジム。今回は知らないムエタイ戦士が多いな。


1R、ローキックを連打する小林にヨードクングライはローキックを打ち返す。試合は意外にもローキック合戦の様相を呈したが、やはりヨードクングライはムエタイ戦士、合間にヒジ打ちを織り交ぜるのを忘れない。これに対してワンツーを入れていく小林、試合は静かながらも拮抗していたが…。

中盤、ヨードクングライの縦のヒジ打ちが小林のガードの隙間に捻じ込まれた。小林は額から流血、ドクターチェックが入る。あまりに呆気ない展開に観客も落胆を隠せない。

試合再開、観客の叱咤激励を受けながら小林は猛然と向かっていく。だがヨードクングライはハイキック、ストレート、ヒジ打ちで反撃。小林もワンツー〜ローキックで対抗するが…ここで小林の額からは再び出血、二度目のドクターチェックが入る。小林の額の傷はかなり深いのだろう。何とか試合続行となったが…次に出血したら確実にストップだろう。小林、大ピンチ。

2R、後がない小林が玉砕戦法に出る。接近してのワンツースリーフォーのコンビネーション、更にはワンツー〜ワンツー〜ボディブロー、ワンツー〜ローキック。必死に喰らいつく小林、ヨードクングライもヒジ打ちで対抗するが…。小林の額からまたしても流血が。三度目のドクターチェックの末…レフリーの腕が振られた。

小林、無名のムエタイ戦士を相手にいいところなく敗北。五対五マッチの四戦目にしてようやく掴んだ初白星に沸くWSR陣営に対し、藤原ジム陣営と観客はすっかり意気消沈。小林も元気のない表情で花道を後にする。


う〜ん、厳しい。小林、久々の大一番でこうもアッサリと負けるとは…。五対五マッチ的にも「日本陣営の初黒星」とはなんとも印象も悪い。救いようがない、というか。かつてラジャダムナンの王者を破った小林が、ノーランカーの選手に負けたという事実。重い、重いなぁ。


彷徨える「野良犬」よ、『明日』はどこへ行く?

第九試合 それはサムゴーに代わる「怪物」が誕生した瞬間だった

日本 vs タイ 五対五マッチ 大将戦 57kg契約 3分5R
ワンロップ・ウィラサクレック(170cm/56.9kg/タイ/M-1バンタム級 王者)
山本真弘(165cm/56.9kg/藤原ジム/全日本フェザー級IKUSA GP-U60 王者)
[3R 2分48秒 TKO]
※2ダウン後、前蹴りでスリップ時にレフリーストップ

日本陣営の2勝1敗1分で迎えた「日本 vs タイ 五対五マッチ」の大将戦、観客の大歓声の中で「全日本キックのスピードスター」山本 真弘が入場。山本は今年一月、当時の王者 山本 元気を判定で下し、全日本フェザー級の新王者になったばかりである。その初陣があのvs 日本人五連続KO中の「切り裂き魔」だというのも厳しい話だが、同時に「山本のスピードには、誰もついていけないだろう」という期待もある。日本キック界の中でもNo.1のスピードを持つ男が、五対五マッチの勝ち越しを賭けて試合に挑む。

山本の入場が終了し、会場内にTata Youngの「Sexy, Naughty, Bitchy」が流れた途端…僕とnar氏は「この曲はぁ〜!この曲はあああぁぁぁ〜!」と頭を抱える。この曲はかつては、あの山本 元気に何もさせずに完勝したムエタイ戦士 ゲーオ フェアテックスが使っていた入場曲なのである。そしてこの時、僕達はこの曲がまるまる終わるまで「WSR名物」ダンシングオヤジの妙に軽快なダンスを見せられたのだった。

「やめてくれぇ〜っ!」という我々二人の願いも虚しく…今日もワンロップを先導してきたダンシングオヤジが、その入場を邪魔しながら踊り狂う。さすがの「切り裂き魔」ワンロップも、オヤジのダンスには苦笑いするばかりである。ちなみにTata Youngはタイ人とアメリカ人のハーフらしい。成程、WSR軍団の選手が彼女の曲を好むのはそれが理由だな。ま、「Sexy, Naughty, Bitchy」自体は聞きやすくて好きなんだけどね。

Tata Young「Sexy, Naughty, Bitchy」

http://www.youtube.com/watch?v=LAB3lBDarbU&search=Tata%20Young%20Sexy%20%20%20Naughty%20%20%20Bitchy


さて試合だが…、結論から言えば「ワンロップはメチャメチャ強かった!」の一言だ。山本得意の「スピードで撹乱する『アウトボクシング』」がまったくワンロップに通用しなかったのだ。


1R、いつものようにワンツースリーとテンポ良くパンチを繰り出す山本、リングを左に回りつつ距離を取る。だがワンロップは鬼のようなキレ味のストレートを披露、イケイケムードで山本を応援する観客に釘を刺す。そして左のヒジ打ち、フルスイングで振られた一発は山本のガードを弾いてヒット、早くも山本の頭からは出血が。ドクターチェックが入り、観客は大パニックに。う〜ん…ワンロップは強いっ!

試合再開、ワンロップは距離を置く山本に対して大振りだが物凄いスピードのヒジ打ち、恐ろしく体重を乗せながらもスピードのあるストレートを繰り出して攻める。合間には強烈なローキックを放って意識を散らす事も忘れない。山本は終盤にワンツースリーフォーのコンビネーションを繰り出すが、ここまで完全にワンロップの威圧感に押されいる状態だ。厳しい。


2R、状況を打破したい山本は自分のできる事を実践、インアウトを繰り返してワンツーを放つ。だがワンロップは山本のインに合わせてパンチや前蹴りを放つ。あの山本のスピードを完全に見切っているワンロップ、行く先に打撃を置かれてしまった山本は「あと一歩」が踏み込めない。仕方がなくアウトに戻り、いつも通りに防御のためにブンブンと身体を振る山本、ワンロップはそこへミドルキックを叩き込む。相手の持ち味を確実に封じていくワンロップ、反対に段々と打つ手がなくなる山本。もはや勝負あったか?

終盤、組み付いてきた山本を吹っ飛ばしたワンロップ、しゃがみ込んだ山本に思わずヒザ蹴りを入れてしまう。レフリーはワンロップにイエローカードを提示したが…これでワンロップに火がついた。これまでとはうって変わって積極的に前に出たワンロップが鬼のようなストレートを連発、山本を追い詰めていく。


3R、前蹴りで距離を取りローキックを連発するワンロップ。山本は接近してパンチを叩き込みたいところだが、ワンロップは大振りながらも凄まじいスピードのパンチで山本の前進に反応。とんでもないレベルのパンチを前に観客が驚きの声を上げる。こうなっては山本に成す術なし。ワンロップが中距離からローキックとミドルキックをバシバシ叩き込む中、山本はどうにか合間を練って前に出る。そこへ…ワンロップの左フックがハードヒット、カウンターの一撃を前に山本はダウンを喫する。どうにもならない状況を前に、観客も既に諦めモードに突入。

何とか立ち上がった山本だったが、ここから先はあっという間。背水の陣の山本は玉砕覚悟、接近してパンチを次々に振っていくが…そこへワンロップのカウンターの右ヒジがヒットし山本は二度目のダウン。それでも立ち上がる山本、しかし足元はフラフラ。最後はキックを連発するワンロップの前蹴りを喰らい山本が力なくスリップしたところでレフリーが試合を止めた。山本はこれが生涯初のKO負けとなったが、その事実を「プレゼント」したワンロップの強さばかりが目立つ一戦だった。


こうして「日本 vs タイ 五対五マッチ」は終了、結果は2勝2敗1分のイーブン。前回の全敗に比べれば日本陣営は進歩を遂げた…にも関わらず、観客は敗者のように意気消沈して会場を後にし、反対にWSR陣営&大応援団は勝者の如きお祭り騒ぎ、ダンシングオヤジも大喜びでリングの上で踊っていた。

もちろん、掛かっていたのはこの曲。Tata Young「Sexy, Naughty, Bitchy」

http://www.youtube.com/watch?v=qYHgeTiaAPo&search=Tata%20Young


それにしても、山本のスピードを問題にしないワンロップの反応の早さには驚いた。元々ヒジ打ちだけではなくパンチもイケる選手だという事はわかってはいたのだが…、あんなに大振りなのにスピードの乗ったパンチは正直、観た事がない。これはもう、サムゴー ギャットモンテープに代わる「怪物」の誕生だ。日本人で勝てる選手なんているのか…。


待て!一人だけいるぞ!


山本 元気さん!もはや僕達には貴方しかいないんです!次の「日本 vs タイ 五対五マッチ」のメインで必ず殺っちゃってください!

雑感

全体的には前回の五対五マッチほどのインパクトはなかったが、メインのワンロップは充分にインパクトを残す勝ちっぷりを収めた。今日はIKUSA-U60 優勝の山本 真弘に何もさせないまま生涯初のKO負けを味あわせた。階級が下であるにも関わらず鬼のような強さ…間違いなくこの先、サムゴーに代わるムエタイの壁として君臨することだろう。WSRの驚異とダンシングオヤジのダンスはまだまだ続く。

その他の試合では、山内 裕太郎が磐石の強さを見せ、寺戸 伸近が鮮やかなKOを収めた。普段から目立たないながらも強さと巧さを発揮する両者だが、今回はそれが前面に押し出ていた。素晴らしい。

そして日本人で一番の凄味を発揮したのが山本 元気。あのカノンスックをボディブロー一発でKOするパンチの破壊力、いかにワンロップであってもこの一撃があれば牙城は崩れるだろう。来るべき次回の五対五マッチに向けて、早くもこの一戦が楽しみで仕方がない、というか。


以上、長文失礼。