11/18 SB 後楽園ホール興行 観戦記 ver1.0

なかなか観戦記を書けずにスイマセン

今日は後楽園ホールSB(シュートボクシング)を観戦。

僕自身はこれが二年ぶり、久々となるSBの観戦記なのだが…。この間もSBには、色々な出来事があった。ここでは簡単に、その足跡を追ってみよう。

なかなか熱戦が続きました(「火魂」(2008年)での、70kg級戦線について)

2007年の「無双」で、他競技との対抗戦を前面に打ち出したSBだったが、2008年は方向性を一転。シリーズ名を「火魂 〜Road to S-CUP〜」と名付け、S-CUP 2008に向けての日本人同士の抗争に力を入れた。

S-CUP 2008の日本代表を争ったのは宍戸大樹、大野崇、金井健治、そして山口大雅の4人。シリーズ前半では海外の選手と闘った彼らは、シリーズ後半でいよいよ出場権を賭けて激突。激戦に次ぐ激戦の末、最終的に勝ち残ったのは「SBの新エース」宍戸大樹だった。さすがだね

また、ヨーロッパやバルト三国でも予選が行なうなど、SBK-1 MAXの力を借りる事なくS-CUP 2008への機運を盛り上げていった。

なかなか激闘の連続でした(S-CUP 2008について)

そしてS-CUP 2008は2008年11月、さいたまスーパーアリーナにて行なわれた。トーナメントに参戦したのは…前回覇者の緒形健一、三回目の制覇に挑むアンディ・サワーシュートボクセ・アカデミーの強豪ルイス・アゼレード、日本代表の宍戸大樹、今は亡き米総合格闘技団体IFLからの刺客クリス・ホロデッキー、ヨーロッパ代表のデニス・シュナイドミラー、バルト三国代表のエドウィン・キバス、そしてK-1 MAX代表のアルバート・クラウス…の代役の金井健治の八名。もう、SBはクラウスなんか呼ぶなよぉ!こうなるのは判っていたんだからさぁ!

例年と比べると総合格闘技の強豪が集まった感のあるS-CUP 2008。決勝に進んだのは…。一回戦で若手のキバスに圧勝し、準決勝では宍戸と激闘を繰り広げながらも完勝したサワーと、一回戦で金井を危なげなく下し、準決勝ではアゼレードを相手にダウンを喫しながらも、最後は渾身の右フック一発で大逆転KO勝ちを果たした緒形の二人。「S-CUP 2006の決勝戦の再現」となった決勝では、アゼレード戦で蓄積したダメージが残る緒形を相手に、キッチリと調整してきたサワーが圧倒。2Rに右フックでダウンを奪うと、立ち上がった緒形に更なる右フックを浴びせる。二度目のダウンを喫した緒形は立ち上がる事ができなかった。この試合でS-CUP 2006決勝のリベンジを果たしたサワーは、同時に三度目のS-CUP制覇を成し遂げた。

う〜ん、やはりサワーは強い。宍戸も一回戦でホロデッキーに苦戦しなければ、もっとサワーと互角に闘えたのになぁ…。あと、アゼレードが一回戦でシュナイドミラーを相手にスタンディングの肩固めを極めたのには驚いたなぁ。ぶっちゃけ、スタンディングの肩固め自体はSBではよく見る光景でしかないんだけど、これを極めた選手というのはちょっと記憶にないよ。さすがは五味隆典を、あと一歩のところまで追い詰めた強豪だね。まあ準決勝では、五味戦と同じく大逆転KO負けを喫するんだけどね(苦笑)。

なかなか変わりました(60kg級戦線について)

またこの間、60kg級戦線もガラリと変わった。及川知浩、歌川暁文、石川剛司、えなりのりゆきといったSBファンにはお馴染みのメンバーに加えて、ファントム進也、崎村暁人、鈴木博昭といった選手達が王座を争うようになる。また、2008年には修斗の軽量級戦線で毒舌で悪名を轟かせた井口摂も参戦して話題になった。今年からは元修斗世界バンタム級王者のマモルが軽量級戦線に参戦中。う〜ん、以前と比べると選手層が厚くなったモンだなぁ、まだまだ薄いけど(苦笑)。

そして単発ながらも今年2月には佐藤ルミナが、今年4月には砂辺光久が参戦して話題に。僕も正直、元新日本プロレス田中秀和リングアナの声で「赤コーナーより『月狼』佐藤ルミナ選手の入場ですっ!」なんてコールが聞ける日が来るとは思ってなかったよ(笑)。

なかなか華やかになりました(女子部門について)

更には、長い間カードが組まれなかった女子部門が復活。16歳でデビューした及川道場のRENAと、シーザージム所属の富田美里の二人を中心に据え、足りない選手はジョシカク団体のJEWELSと提携して補った。そして昨年くらいからは興行の中に、必ず女子の試合が組まれるようになる。

今年8月には女子版S-CUPことGirls S-CUP 2009を開催。ジョシカクの新生が一堂に会した8人制のワンデイ・トーナメント、覇者となったのは若干18歳のRENA。まだまだ黎明期の女子部門だが、RENAが覇者となったことで戦線の拡大も期待できるだろう。

なかなか勝てませんでした(緒形健一について)

このようにSBは華やかな変化を遂げていたが、その裏で敗北が続いていたのが「SBの魂」緒形健一だ。

2007年はビッグベン・ケーサージム、アダム・ヒグソン、そしてブライアン・ロアニューを相手に敗北を喫した緒形は、自身が保持してSB日本スーパーウェルター級王座を返上。2008年はS-CUP 2008に向けての再起の年としてコツコツと勝利を積み重ねたが、その本番の舞台では前述のように、決勝戦の舞台でサワーに敗北。更には今年1月、総合格闘家のテイラー・トーナーを相手に、まさかの失神KO負けを喫してしまった。

今年で34歳となる緒形、長年のダメージの蓄積が、ファイトからも感じられるようになった。ハッキリ言ってしまえば、今後の人生の事を考えると「引退もやむなし」という気するが…。今後の動向に注目しようと思う。

それにしてもヒグソン、ロアニュー、トーナー。そしてKO寸前に追い込まれたアゼレード。緒形は意外な程、総合格闘家に負け続けているなぁ…。昔の緒形は総合格闘家をお得意さんにしていたのになぁ…。

なかなか考えられません(「武士道」(2009年)での、SB全体の闘い模様について)

今年に入ってからのSBは、シリーズ名を「武士道」と名付けて、昨年から続いている日本人対決路線と、頭角を現した選手を外国人と対戦させる路線を平行して進行。

S-CUP 2008インパクトを残した梅野孝明は、金井が持つSB日本スーパーウェルター級王座に挑み、宍戸はPRIDE武士道の常連だったアゼレードを相手に強さを証明。60kg級は元修斗世界王者のマモルを含めた日本人同士による激しい潰しあいが続き、前述のルミナや砂辺に加えて「闘うマスオさん」ことベルナール・アッカもスポット参戦。今年のSBは、以前では考えもしなかった光景が広がっている。

う〜ん、こうやってまとめて書くと、色々とあって面白いモンだなぁ。

なかなか楽しみです(今日のSBについて)

さてさて。今日のSBは大きな賭けに出た。なんと今回の興行には、「SBの魂」こと緒形健一も「SBの新エース」宍戸大樹も出場しないのだ。エースの二人が出場しない興行というのは、長いこと後楽園ホールSBを観戦している僕でもちょっと記憶にない。う〜む、一応2007年11月のヤングシーザー杯は緒形も宍戸も出場していないけど、あれは若手中心の興行だからなぁ…。

そんな今回のSBのメインイベントを務めるのは「東洋のハルク」梅野孝明だ。ブアカーオと同じジムに所属する元ルンピニー王者のチョークディ・ポー・プラムックを相手に、初のムエタイ超えに挑む。う〜む、梅野のメチャメチャなスタイルが、ムエタイを相手に通用するかどうかは見物だなぁ。またセミファイナルでは絶賛連敗中の金井健治が、他団体のランカーである堤大輔を相手に試合を行なう。その他にも石川剛司やRENAといった、最近のSBではお馴染みの面々も出場。う〜ん、やはり二年前くらいのSBとは状況が変わったよなぁ…。


ちなみに今回の興行にはPON(id:pon-taro)さん、psyzoh兄さん(id:psyzoh)、セイントマンKブラックさん(id:the_saintK)、フリジッドスターさん(id:frigidstar)、zenさん(http://zenzen.jugem.jp/)を連れて観戦。う〜ん、僕もこれだけの面々をSBに誘えるようになったんだなぁ。しみじみと感慨深いねぇ。

観客の入りは約7割。エース不在の影響が客入りに出てしまったね。まあ、今日の興行で梅野と金井が新エースと呼べるような活躍をしてくれれば、すべてはチャラだけどね。

第五試合 なかなか難しいものです

女子51kg契約 2分3R + 延長3分1R
○V一(153cm/51.0kg/MAX柔術アカデミー&ヨガスタジオ/Girls S-CUP 2009 準優勝)
●悦・センチャイジム(164cm/51.0kg/センチャイムエタイジム)
[延長判定 3−0]
※本戦判定1−0

この試合の延長戦から観戦。僕自身は生観戦はしていなけど、聞いた話だとV一はベースが柔術であるにも関わらず、Girls S-CUP 2009では投げを武器に躍進して準優勝を果たしたのだそうだ。まあSBは過去にも、菊田早苗がアマチュア大会で柔道の投げを連発して優勝したこともあるし、投げを主体に闘う選手がいるのは不思議じゃないけど、派手な投げを連発したようなのでちょっと観たかったなぁ。


だがVは、この試合では長身の悦(これで「えっちゃん」と読むそうな)を相手に大苦戦。首相撲を決められたり、投げようとすると腰を落とされてブレイクが掛かったり。う〜む、悦がシュートポイントを奪われていないところを見ると、投げに対する対策をバッチリ練ってきたんだろうな。正直、昔から「首相撲がしっかりできる選手を投げるのは難しい」とは言われているからねぇ。



それでもVは要所でパンチをクリーンヒットさせて試合の主導権を握る。反対に悦は、Vの投げを腰を落として防御することを連発してしまった為にイエローカードが提示されてしまった。SBルールでは、投げ対策で自ら倒れこんだりするのは反則なのだ。



そんなこんなで延長判定は3−0でVの勝利。



とりあえず、噂に聞いたVの活躍が観れなかったのは残念だ。でも正直、Vの本番はVALKYRIEでの辻結花戦だと思うので、そっちの方では是非、頑張って欲しい。辻は本当に強いけど、辻に勝つ日本人選手が出てこないと女子格闘技界も次のステップに進めないからね。頑張ってくれっ!

第六試合 なかなか若いです

女子バンタム級 2分3R + 延長3分1R
○RENA(160cm/51.5kg/及川道場/Girls S-CUP 2009 優勝)
●藤野恵実(158cm/51.9kg/和術慧舟會GODS)
[2R終了時 TKO]
※藤野が鼻骨を骨折

SBの若き女王」RENAは、約2年前に若干16歳でプロデビュー。初戦は敗北したが、以降は連戦連勝。強さと若さとルックスを兼ね備えたRENAの存在は、あっという間にSBファンに知れ渡る事になる。初の晴れ舞台となったS-CUP 2008では、ワンマッチでMIKUに完敗を喫するも、今年8月に行なわれたGirls S-CUP 2009では、トーナメント出場選手の中では数少ないSB代表というプレッシャーを跳ね除けて、見事に優勝。経験を積んで18歳になったRENAの、現在の戦績は13戦9勝3敗1分1KO。KO率を上げるのが、今後は課題だね。



そんなRENAと本日対戦するのは、「特攻天女」藤野恵実。特攻服姿で入場する藤野は、過去には総合格闘技岡田円やV一を撃破した実力者だ。RENAも気を抜けば「奥歯をガタガタいわされる」事になるだろう。


1R、藤野が積極的に前に出てパンチを放ち、これにRENAが応戦した為、試合は序盤からアグレッシブな展開となった。ボクシング主体の藤野に対し、RENAはワンツーで迎撃しつつ左前蹴りで距離を置き、左ローを蹴っていく。中々に噛み合った攻防だったが、藤野の強烈なプレッシャーを前にしたRENAは、クリンチで逃れる事もしばしば。中盤、RENAの右ストレート、右の顔面前蹴りがヒット。ここからはRENAが攻勢に出るも、逆に終盤では藤野の右ストレートを喰らってしまった。う〜ん、やっぱりRENAは気が抜けないねぇ。



突然、流れが変わる。2R、序盤にRENAの右ストレートがハードヒット、この一撃で藤野の鼻からは出血の量は相当なもので、ドクターストップが掛かってもおかしくなかったが…試合は再開。う〜ん、本当に大丈夫かなぁ?



後がなくなった藤野は、今までよりも前進を強めてパンチを繰り出す。しかし終盤、気持ちが早るばかりガードが甘くなる藤野の顔面にRENAの右ストレートが二回クリーンヒット、更に右ミドルを叩き込むRENA。ダメージを隠せない藤野は後退、RENAがワンツーを出しながら追いかける。う〜む、これはやや一方的になってきたか。



ここで2Rは終了したが、どうにも藤野の鼻血が止まらない。ここでドクターチェックが入り、「鼻骨骨折の疑いがある」という事でストップが掛かった。う〜ん、これは仕方がないね。


うむ、今日のRENAは快勝だね。復活したSB女子部門のエースとして、これからも活躍を期待したいところ。とりあえず当面の目標はS-CUP 2008で敗れたMIKUへのリベンジかな?



なかなかメモれませんでした

休憩後にはいつも通り「♪シぃ〜ザぁ〜、シぃ〜ザぁ〜」の曲と共にシーザー武士会長が入場、挨拶を行なった…んだけど、今回はメモを取るのに失敗したから省略。シーザー会長、申し訳ない。



第七試合 なかなか反則が出ません

60kg契約 3分3R + 延長3分無制限R
○パジョンスック・ポー・プラムック(170cm/60.0kg/タイ)
●石川剛司(170cm/60.0kg/シーザージム/SB日本スーパーフェザー級 一位)
[判定 2−0]

石川剛司が、またやってしまった。


今年9月に行なわれたガイ・ストラッグルジム戦で、石川はもつれてスリップした際に、裏技的に膝を入れてきたガイに大激怒。石川の展開でガイを転ばし、その顔面にサッカーボールキックを放ったのだった。あまりにも露骨な反則。ダメージの大きいガイは立ち上がる事ができず、石川は初となる反則負けを喫してしまった。

だが、石川のリング上での素行の悪さは、一部マニアの間では有名な話だ。過去には石川は、ダウンした相手に裏技的に膝を落としたり、追い詰められた状況で組んだ相手の後頭部に肘を入れたりなどの反則を何度も繰り返してきた。勝ったら勝ったで、倒れた相手を跨いで勝ち誇るなど、対戦した相手に失礼な行為も平気でやってしまうのだ。石川がそんな選手である事を知ってしまえば、先に書いた反則負けについても「まあ、この選手ならやりかねんな」という程度のものにしかならないだろう。ふ〜む、本当は反則なんか使わなくても、そこそこ実力はある選手だと思うんだけどなぁ。



追い詰められたり興奮したりすると、ついつい反則が出てしまう傾向がある石川。今日の試合は、前回のガイ戦に続いての対ムエタイ戦。相手に選ばれたのは…K-1覇者のブアカーオ・ポー・プラムックと同じジムに所属し、SBの軽量級戦線で存在感を発揮するパジョンスック・ポー・プラムックだ。ふ〜む、ぶっちゃけ石川じゃ勝てんだろ。前回の反則に対しての制裁マッチかねぇ?



1R、パジョンスックはムエタイの定石通りの様子見モード。石川の出方を伺いつつ左ミドルを繰り出すのだが、その一撃がかなり重い。時折放つ右ストレートもかなりの鋭さだ。相変わらず不気味な強さを発揮するパジョンスックに対して、石川はガードを固めながらワンツーを散らす、こちらも様子見モードだ。試合は緊張感を保ちつつ進んでいく。

均衡が破れたのは終盤。石川は意を決して前へ出ると、パジョンスックをコーナーへと追い詰めてワンツーや右ローを連打。石川の攻勢に対して観客は歓声を贈る。今日の石川は良い感じだな。



2R、両者が距離を置いての打撃戦を展開する。パジョンスックが右ストレートと左フックを繰り出せば、石川はしっかりブロック。パジョンスックの左ミドル、石川は右ボディで対抗。パジョンスックが首相撲から石川を投げる、石川も負けじと腰投げを狙うが…パジョンスックは涼しい顔でこれを防御。う〜む、ちょっと自力の差が出始めたか?

徐々にパジョンスックの攻めが厳しくなる。再び繰り出される強烈な右ストレートと左フック、石川は防御するも、パジョンスックのプレッシャーに気圧されて前に出れなくなっている。終盤、何とかした石川は、パジョンスックの左ミドルに右ボディを合わせて喰らい付く。う〜ん、予想通りだけど、厳しい展開になってきたな。



石川劣勢で迎えた3R、序盤に石川のワンツー〜左フックのコンビネーションがヒット。思わぬ石川の反撃に、観客から歓声が起こる。千載一遇のチャンス、石川は一気に畳み掛けるべく前に出るが…。パジョンスックは石川を首相撲に捕らえると、強烈な膝蹴りでこめかみからの出血を誘う。むぅ、傷は浅いけど…ムエタイ選手を相手に流血は危険だ。

ドクターチェックの後で試合は再開。追い詰められた石川は、意を決して前に出てボディの連打や右ストレート、左テンカオを繰り出して必死に攻めるが…。パジョンスックはこれをしっかり防御すると、離れれば左ミドルや左フックでダメージを与え、石川接近すれば首相撲からの膝蹴りを連打。地味ではあるが、石川の攻撃を完全に封じ込めてしまう。う〜ん、巧い。



試合終了、判定の結果は2−0でパジョンスックの勝利。ふ〜む、確かに全体的には地味な展開だったし、決定打があったワケじゃないけど、いくら何でもこの展開でドローが付いちゃうのはナイでしょ。


うむ、今日の石川は完敗。自分のやりたい事を全然やらせて貰えなかったねぇ。まあ、追い詰められても反則を出さなかったのにはホッとしたけど、毎回こんな事を心配させる格闘家というのもどうか?どうなのか?

『信用は一生、破壊は一瞬』、石川もシーザージムの選手なら、せめてシーザー会長の言う「世の為、人の為になる選手」になって欲しいのだが…。




第八試合 なかなか苦戦しました

70kg契約 3分3R + 延長3分無制限R
○金井健治(172cm/68.85kg/ライトニングジム/前SB日本スーパーウェルター級 王者)
●堤大輔(172cm/69.0kg/チームドラゴン/J-NETWORKウェルター級 二位 & 元全日本ウェルター級 二位)
[延長判定 3−0]
※本戦判定0−0

僕が観戦記の執筆を止めている一年半の間、最も台頭したのが金井健治だ。


これまでもS-CUP 2006でのワンマッチで尾崎圭司と互角の闘いを見せるなど、随所で実力者ぶりを発揮していた金井。だがSBの70kg級はアンディ・サワー、緒形健一、宍戸大樹、大野崇、菊地浩一といった実績を残した選手達がしのぎを削る階級だ。ここに実績のない金井の入る隙はなかった。

そんな金井の存在が急浮上したのは、2007年11月。ヤングシーザー杯で山口太雅を左フックで秒殺して存在感を発揮した金井はこれが認められて、2008年2月に緒形が返上して空位となったSB日本スーパーウェルター級王座を賭けて菊地との勝負に挑んだ。下馬評では菊地有利が囁かれる中、金井は6Rに渡る激闘の末にこれを下して王者となる。

こうなると金井の勢いは止まらない。2008年5月、実力者として知られるアンディ・オロゴンを撃破。2008年7月、大野崇を相手に王座防衛戦を行ない退ける。30歳を過ぎてから戴冠した遅咲きの王者は、いつしかSBファンの誰もが認める存在となった。

だが、順風満帆というわけにはいかなかった。2008年9月、S-CUP 2008の出場権を賭けて宍戸と対戦した金井は、ダウンを奪われた上にジャーマンスープレックスで投げられた末に完敗。それでもS-CUP 2008にはアルバート・クラウスの代打という形で出場を果たしたが、その一回戦では緒形を相手に2RKO負け。更には今年6月、王座防衛戦で梅野孝明を相手に5RTKO負け、虎の子のベルトも失ってしまった。

目下4連敗中の金井にとって、J-NETWORKでも全日本キックでもランキングを経験している堤大輔は絶好の相手。ここはなにがなんでも勝利を掴んで、再浮上のキッカケにしたいところだね。



1R、金井は前に出ながら得意のワンツー〜右ローを放つ。対する堤は下がりながらの左ミドルで応戦。試合の主導権を握っていたのは堤、金井が接近すれば右ジャブで突き放し、距離が離れれば左ミドルを重ねていく。だが金井も右ローや右ミドルを蹴りつつ粘り強く前に出る。終盤、金井の右ストレートが二回ハードヒット。金井の執念の一撃に観客から歓声が沸く。

1R終了、地味だけど両者ともに手数が多くて面白いね。



2R、金井は得意の右ローの数を減らし、距離を詰めながらのワンツーと右ミドルを主体にして攻める。ジリジリと前に出る金井に対し、堤は下がりながらの左テンカオ、左ミドル、そして右ジャブで金井を遠ざける。

1R終盤にハードヒットを連発した金井にしてみれば、もう一度距離を詰めて強烈な一撃を喰らわせたいところだが…。堤の巧妙なアウトボクシングを前に、金井の踏み込みは甘くなる。それでもパンチの距離へと持ち込む場面もあったが、堤は右アッパーやワンツーで金井を迎撃。やりたい事ができずに焦る金井、表情からは焦りと疲労の色が見える。

それでも金井は、右ストレートや右ローを繰り出しながら前に出る。終盤、堤をコーナー際へと追い込みワンツー、更には左ボディを叩き込む。対する堤もパンチで応戦、両者の打撃が交差する。

2R終了、堤はまだまだ体力を残しているようだが、金井はかなり疲れている様子。どうする金井っ!?



3R、これまで以上にプレッシャーを強めた金井が打ち合いに出る。対する堤は、最初こそ呼応してパンチを返したが、程なくしてまた下がり始める。遠距離から左ミドルやテンカオを連発して少しずつ金井の体力を削っていく堤に対し、金井は前に出てのワンツーと右ミドルで応戦。

愚直に前進を続ける金井を観客が声援で後押しする中で迎えた中盤、金井の右ミドルがハードヒット。更には終盤、金井の右ストレートが堤の顔面を打ち抜く。土壇場での金井の一撃に、観客は大歓声を贈る。う〜む、試合のペースを握っているのは堤だったけど、最後に金井の執念が追いついたね。



試合終了。僕は「まあドローだと思うけど、ひょっとしたら僅かに試合の主導権を握っていた堤の勝ちになるかも」と思っていたが、実際の判定の結果は0−0のドロー。試合は延長戦へと突入だ。



延長R、金井は今までと同じくワンツーを武器に前に出る。対する堤も、これまでと同じく下がりながらの左ミドルとワンツーで応戦。ここで堤は、これまで以上に積極的にパンチを繰り出して金井の接近を阻むが、金井はそれらを気にせずに前に出続け、まずは重そうな右ストレートをかすらせる。むぅ、ここに来て金井の執念が試合を支配し始めたねぇ。

終盤、堤はテンカオやアッパーで抵抗を続けるも、金井はプレッシャーを強めて前に出ると、右ストレートや右ローを叩き込んで追い込む。焦った堤は至近距離で、この試合では反則となる左の肘打ちを使用してしまい、手痛いイエローカードを貰ってしまう。精神的な疲労を隠せない堤に対して、金井はワンツー〜右ミドルで追撃。最後は両者ともに打ち合いを挑み、大歓声の中で試合は終了した。



判定の結果は3−0で金井が、実力拮抗の試合を制した。



う〜む。金井の連敗脱出そのものは非常に嬉しいんだが、正直もっとスッキリと勝って欲しかったなぁ。確かに堤はいやらしい強さの持ち主だったし、見た目よりもずっとやり難い相手だというのはわかる。わかるけど、相手を追い込みながらも「あと一歩」が踏み込めない状況を何度も目撃すると、さすがにイライラするなぁ。ぶっちゃけ、このままじゃ緒形や宍戸の背中は永遠に遠いままだろう。

今後の奮起に期待したいね。決して弱い選手じゃないのは知っているからさ。

第九試合 なかなかメチャメチャです

70kg契約 3分5R + 延長3分無制限R
梅野孝明(178cm/70.0kg/シーザージム/SB日本スーパーウェルター級 王者)
●チョークディ・ポー・プラムック(174cm/70.0kg/タイ/元ルンピニー・ウェルター級 王者)
[3R 2分44秒 KO]
※右のハンマーフック/梅野は1Rにダウン1、チョークディは3Rにダウン2(2度目のダウンでKO)

昨年、さいたまスーパーアリーナで行なわれたS-CUP 2008で、もっともインパクトを残したのは。


スタンディングの肩固めで対戦相手を葬ったルイス・アゼレード…ではなく。
そのアゼレードにダウンを奪われながらも、大逆転KOで勝利した緒形健一…ではなく。
その緒形をKOで下して、三度目のS-CUP制覇を成し遂げたアンディ・サワー…ではなく。
ワンマッチでRENAを相手に、何もさせずに完勝したMIKU…ではなく。
試合よりも、入場時のダンスの方が記憶に残ってしまった風香…であるワケもなく。


S-CUP 2008でもっともインパクトを残したのは、決勝戦の前のワンマッチで菊地浩一と対戦した「東洋のハルク」梅野孝明の存在だろう。


梅野孝明は、その素質に惚れ込んだシーザージムが、寝屋川ジムから引き抜いた選手だ。梅野が持つ素質、それはパワーである。元々ヘビー級だった体格を、70kg級にまで絞った身体を持つ梅野の得意技は、フルスイングで放たれる右のハンマーフック。フォームもメチャメチャなままに繰り出されるその一撃は、観る者に多大なるインパクトを残す。「なんだアレっ!?」「ひど過ぎるっ!」「セオリーも何もあったモンじゃないっ!」。梅野のハンマーフックを生で観た人の八割は笑い、残りの二割は本気で呆れ返る。梅野はそういう選手なのだ。


S-CUP 2008で我々は眼にしたものは…。「SBの次世代エース候補」と呼ばれていた菊地をボクシンググローブを嵌めた左手で掴み、逃げれなくしてから強烈な右のハンマーフックを連発する梅野の姿だった。…ひでぇ。文章で書いていても、これはひでぇ(笑)。でも間違いなくインパクトはS-CUP 2008の中では一番。梅野はそういう選手なのだ。


打撃系格闘技の常識を覆す技で、かつての先輩から勝利を挙げた梅野は、この勝利から一気に躍進。山口大雅、大野崇といった強豪を次々に撃破した梅野は今年6月、金井健治を大振りな右の肘打ち一発でTKOに追い込んでSB日本スーパーウェルター級王座を獲得すると、今年9月には初の国際戦でフローレン・スクープを右のハンマーフック一発で秒殺KO。

DRAGON GATEB×Bハルク似の甘いマスク、顔に負けないくらいに甘すぎるガード(笑)、セオリー無視のメチャクチャな打撃フォーム、右のハンマーフックしか狙わない極端なファイトスタイル。そういった事象をすべてを巻き込んで、尚も相手を破壊していくその姿を、僕は「東洋のハルク」と名付けた。

う〜む、それにしても…文章で書いていても、とてもシーザージム所属とは思えない選手だな(苦笑)。



そんな梅野の相手は、かつてはあのルンピニー・スタジアムでベルトを巻いていた事もあるという強豪、チョークディ・ポー・プラムック。相手は本物の超一流、ムエタイ戦は初となる梅野は、得意の右のハンマーフックで勝利を掴めるのかっ!?



1R、チョークディはいきなり左ハイで牽制、梅野はこれをかわす。その後、チョークディはムエタイの定石通りの様子見モード。対する梅野も、前に出ないで相手の出方を伺ったが…。中盤、突如チョークディの打ち降ろしの右ストレートがヒット。効いてしまった梅野がグラつくと、チョークディはこれを足払いで転倒させる。観客は「これはスリップだろう」と思っていたがレフェリーはダウンと判定し、カウントを数え始める。思わぬ出来事に観客が騒然したが…。

立ち上がった梅野の「ハルクの」が目覚めた。失点を挽回すべくプレッシャーを掛けて前に出た梅野は、チョークディに接近すると、右のハンマーフックをブンブンと振り回して一撃KOを狙う。「繰り出すパンチは全て大振り」という、セオリーを無視した強烈なパンチの連打に観客が驚きの声を上げる中、至近距離での闘いは危険と見たチョークディは、テンカオを使って梅野を遠ざけようとする。だが梅野は腹に膝を喰らっても、まったくプレッシャーを弱めずにノシノシとチョークディを追い掛ける。

ここで1Rは終了。観客からは梅野の攻めを支持する歓声が沸く。相変わらず梅野の試合は、メチャメチャで面白いなぁ。



2R、序盤は一旦様子を見た梅野に対して、チョークディは左ハイで梅野を牽制すると、左ミドルでダメージを与える。だが中盤、梅野は再びプレッシャーを強めて前に出てチョークディをコーナーへと追い込み、全身を使ってボディへ左のハンマーフックを叩き込む。強烈な一撃に観客からは歓声が沸いたが、チョークディは怯まず、首相撲からの膝蹴りを梅野の顔面に叩き込む。鋭い一撃を喰らった梅野、右の目尻からは出血が。ぬぬぅ、ムエタイ選手を相手に流血は危険だ。

1Rのダウンに続いての失点。ますます後がなくなった梅野だが、これで再び「ハルクの」が目覚める。これまで以上にプレッシャーを強めて前に出る梅野に対して、チョークディは左ジャブやテンカオを駆使して懐に潜らせない。細かい打撃で梅野を遠ざけた後は左ミドルでダメージを与えるなど、巧みな試合運びで梅野の距離を潰していくチョークディ。だが…。

そんなことはお構いなしに前進を続けた梅野はラウンド終了直前、ついにチョークディをロープ際へと追い詰める。そして左腕でチョークディの頭を掴んだ梅野は。右のハンマーフックを猛連打してダメージを与える。荒すぎる梅野の攻撃を観た観客が大歓声を上げる中で2Rは終了。う〜ん、梅野の試合はいつ見ても、とても格闘技の試合とは思えん(笑)。大体、ボクインググローブで相手を掴んで殴るキックボクサーなんて見たことがないよ(苦笑)。



3R開始早々、チョークディは左ハイを連打して梅野を挑発。だが梅野はこれをガードすると、低いガードのままジリジリと前に出る。チョークディをロープ際へ追い詰めた梅野は右のハンマーフック一閃。これがハードヒットし、観客は大歓声。更にはボディへの左のハンマーフックで追撃する梅野に対して、チョークディは左のジャブで遠ざけようとする。



だが、梅野の勢いは止まらない。前進を止めずにチョークディに接近、「ブーン!」という音の出そうな右のハンマーフックを振り回す梅野が、変化球とも言える右アッパーを叩き込む。観客の大歓声の中、一発でフラついたチョークディ、梅野はすかさず右のハンマーフックをハードヒットさせる。全身を使って力任せに殴りつける梅野の右のハンマーフック。あんなの、一発喰らっただけで意識が飛ぶだろうな…。

ダメージの大きいチョークディと、尚も右のハンマーフックを振りかざす梅野。この二人が繰り広げたのは「観るも無残な光景」だった。身体を丸めて必死にガードするチョークディに対して、梅野はお構いなしに滅茶苦茶なフォームから右のハンマーフックを猛連打。ガードの上から下から、ブンブンと振り回される一撃必殺のハンマーフックを喰らい続けたチョークディが堪らずダウンを喫すれば、観客は大歓声で梅野の攻撃を支持。



何とか立ち上がったチョークディだが、やはり足元はフラフラ。そんなチョークディに再び、梅野の容赦のないハンマーフックが襲いかかる。またしても必死にガードを固めるチョークディ、またしてもフォームを無視した右のハンマーフックを猛連打する梅野。あまりにもメチャメチャな闘いぶりに観客から大歓声や大爆笑が起こる中で一発がハードヒット、チョークディは横倒しにダウン。こんな状態では、チョークディが何度立ち上がっても結果は同じ。レフェリーが試合終了を宣告すると、観客は大歓声で梅野の勝利に歓喜した。

勝った梅野は「色々な人々が支えてくれたおかげで勝てましたっ!この感謝を忘れませんっ!来年も、梅野孝明は爆進しますっ!」とアピール、観客からは歓声が沸いた。う〜ん、殊勝なコメントだなぁ。ファイトスタイルとは正反対だ(笑)。



いや〜っ、それにしても…。相変わらず、梅野の試合は良い意味でヒドいっ!まあ正直、現在の打撃系格闘技で、観客からあれだけの笑いと歓声を引き出せる選手って、ファイヤー原田と梅野くらいじゃないかなぁ?本当に梅野の試合は、観る者を明るい気持ちにさせるねぇ。こういう選手は不景気に強いよ(笑)。

それにしても、最初に梅野を観た時は「こんな選手に、シーザージムのスタイルを教える気なのかなぁ?」と思ったものだが、結局は本人のスタイルをそのままにして育てる気なのね。もうこうなったら、その異様なスタイルで、行けるところまで行ってくれっ!

雑感

今日はもう、梅野孝明に尽きるね(笑)。正直、メインは笑い疲れちゃったよ(笑)。


なんというか、滅茶苦茶というか、ホントよくあのスタイルで勝てるよなぁ。あの右のハンマーフックがどこまで通用するのか、もっと観てみたねぇ。正直、K-1 MAXで外国人と当たった日には、目も当てられないような結果が待っていそうだけどね(苦笑)。でも、梅野の強さの一つには「打たれ強さ」もあるからなぁ。相手がアンディ・サワーとか、ブアカーオ・ポー・プラムックとか、ジョルジオ・ペトロシアンでなければ、案外勝っちゃうかも。


とにかく、ここまで読んで下さった皆さん!今日は「梅野孝明」の名前だけでも持って帰ってください(笑)。



以上、長文失礼。