3/1 新井田vsバレラ 後楽園ホール興行(地上波) 一試合のみ観戦記

あなたは、この新井田豊という世界王者のことを知っているだろうか?

WBA世界ミニマム級世界王者、新井田豊


2001年8月25日、チャナ・ポーパオインに勝利して世界王者になるも「持病である腰痛の悪化」と「王座奪取による燃え尽き症候群」を理由に、なんと王者のまま引退を表明。その後はジムのトレーナーとして後進の育成に努めていたが、2002年12月、引退を撤回して現役に復帰。その後は紆余曲折を経て、2004年7月3日、ノエル・アランブレットを撃破して再び世界王者に君臨。今度は引退する事はなく、以来三年八ヶ月に渡って六度も王座を防衛している「偉大な世界王者」である。


ちなみに新井田は、WBA世界ライトフライ級王座を賭けて亀田興毅と二度対戦したファン・ランダエダとも対戦経験があり、この時は新井田が判定勝利している。…っていうかランダエダって元々、一階級下の選手だったのか。階級を落として王座戦に挑んでいた興毅が苦戦しちゃイカン相手だろ。


閑話休題。話を新井田の話に戻す。

あなたは、この新井田豊という世界王者のことを知っているだろうか?

少なくとも僕は昨年の夏まで、新井田豊という王者の存在をまるで知らなかった。


新井田が二度目に世界王者になってから経験した六度の世界王座防衛戦のうち、五回は後楽園ホールでの試合。WBCの同級王者だったイーグル京和(現:イーグル・デーン・ジュンラパン)が日本武道館パシフィコ横浜で防衛戦をやっている事を考えると、なんとも地味な印象を受ける。そして、その七度目の防衛戦の舞台は…やはり後楽園ホールだ。テレビに関しても生中継などはなく、かろうじて日テレ深夜番組「ダイナミック・グローブ」枠で当日放送という小さい扱い。


本人には失礼だが「ボクシングの世界王者=巨万の富」というイメージから最もかけ離れた存在、それが新井田という世界王者なのである。


ちなみに新井田が所属する横浜光ジムは、あの畑山隆則を排出した名門なのだが、王者時代には次々に話題を作っていった畑山と比べると、新井田の知名度の低さが一層際立つなぁ。

実力差を見せつけた圧勝劇

WBA世界ミニマム級タイトルマッチ 3分12R
新井田豊(156.8cm/47.5kg/横浜光ジム/WBA世界ミニマム級 王者)
●ホセ・ルイス・バレラ(154.7cm/47.4kg/ベネズエラ/WBA世界ミニマム級 十三位)
[6R 2分16秒 KO]
※パンチ連打/新井田が防衛に成功/バレラは3Rにダウン1

新井田の防衛戦の相手となる、ホセ・ルイス・バレラの異名は「エル・オリンピコ」。シドニーオリンピックへの出場経験があるそうで、アマチュアでは十冠王に君臨していたそうだ。…とはいえ、バレラは十三位の選手、新井田にしてみれば圧勝して然るべき相手。王座を防衛すれば「日本人による世界王座の連続防衛記録」が歴代単独四位となる新井田、キッチリと勝利を上げる事はできるのか?


1R〜2R、両者とも構えはオーソドックス、プレッシャーを掛けているのは新井田。左ジャブで牽制しつつ、左フックや右ストレートを振り回す。対するバレラも左ジャブ、左フック、右アッパーを駆使して応戦するも、新井田は左ボディ〜左フックのコンビネーションを多用してバレラのガードを崩していく。新井田の打撃を喰らい続けたバレラは、早くもやや及び腰の状態だ。


迎えた3R中盤、パンチを打ち終えたバレラが腰高になったところに、新井田の素早い左フックがクリーンヒット。バレラがダウンを喫すると、観客は大歓声で新井田を支持。勝機を得た新井田は、相手を掴んでの左フック連打や左右フックの連打、そして左ボディ〜左フックのコンビネーションで一気にバレラを攻める。だがバレラは必死に応戦し、このラウンドを逃げ切った。


4R〜5R、3Rにダウンを奪った新井田だが一気に攻める事はなく、プレッシャーを掛けながら要所で右ストレート、右フック、右アッパー、左フックといったパンチをハードヒットさせて試合をリード。4R中盤頃からはデトロイトスタイルによるフェイントを織り交ぜてバレラをジワジワと追い詰める。対するバレラも新井田のパンチによく応戦、5Rからは自ら前に出るなどで強気な一面を見せるも、ヒット数は新井田の方が上だ。


6R、新井田はバレラのパンチにカウンターの右ストレートを合わせると、ガードを固めつつバレラに接近し、至近距離から強力な左右のパンチを次々に叩き込む。バレラの反撃のパンチを間合いの外に出て空振りさせた新井田は左ボディでバレラの動きを止めると、苦しい表情を浮かべるバレラにパンチの連打を浴びせて二度目のダウンを奪った。

そして左ボディが効いているバレラは、四つん這いになったまま立ち上がる事ができない。マウスピースを吐き出して苦しむバレラに向かってレフェリーが10カウントを数えると、過去十回の世界戦で初めてKOを飾った新井田は、側転〜バク転でその喜びを表現。観客の大歓声の中、新井田は七度目の世界王座防衛に成功した。う〜む、この大記録はもっと知られていいと思うね。


勝利者インタビューで「連続防衛記録は、具志堅用高選手の持つ『十三回』がありますが?」と振られた新井田は、「自分は一戦一戦(の防衛戦が大事)。その延長線でそういう記録がついてくれば良いと思います」と淡々とコメント。う〜ん、大記録の持ち主でありながら朴訥とした人柄だな。


さてさて、新井田の次なる防衛戦の相手だが…関係者の間で待望されているのは、ローマン・ゴンザレス(ニカラグア)なる選手との一戦なんだそうだ。なんでもゴンザレスはデビュー以来、16戦16勝無敗15KOで「計量級のエドウィン・バレロ」と呼ばれているそうな。ぬぬぅ、体重は軽くても「怪物」というのは存在するモンだなぁ。ならば、せめてゴンザレスとの一戦は大会場で、そして生中継で実現して欲しいモンだなぁ。

雑感

ようやく新井田の試合を見る事ができたが…今日の試合を見る限りでは「やるべき事がキチンとできている上、技の多彩な選手だなぁ」という印象かな。現在の日本人の世界王者である内藤大助長谷川穂積が「変則的なボクサー」なだけに、新井田のような「正統派のボクサー」で強い選手を見る事ができたのは、何だか嬉しいねぇ。


しかし…正直、今日の試合ぶりが「新井田豊」という選手のすべてとは思えない。身長156.8cmという小柄な体格の新井田は、普段は自分よりも身長が高い選手を相手に防衛記録を積み上げているのだ。今度はそういった選手との防衛戦も見てみたいね。

ちなみにローマン・ゴンザレスの身長は162.5cmだそうで。う〜ん、もし次の一戦がゴンザレスだとしたら、新井田は大苦戦しそうだなぁ…。


以上、長文失礼。