6/11 全日本キック 後楽園ホール興行 観戦記

Mask_Takakura2006-06-11

今日の興行は「蛇頭竜尾」(竜頭蛇尾じゃないよ)

今日は後楽園ホールにて全日本キックを観戦。


いつでも話題には事欠かない全日本キック、今回は後半に組まれた国際戦五試合が興行の売りである。日韓戦二試合&日泰戦三試合。全日本キック側は望月竜介、藤原あらし、山本元気山本真弘の「W山本」、そして小林聡と全員がチャンピオン経験者である。特に「W山本」と小林の対戦相手は「日本 vs タイ 5対5マッチ」でお馴染み、因縁のWSR(ウィラサクレック フェアテックスジム)軍団である。山本真弘の対戦相手は未知のムエタイ戦士・ダーラタイ・ペッパヤッタイ、小林の相手は3ヶ月前に敗れたヨードクングライ・ノーンカムジム、そして山本元気の相手は…、あの「日本人キラー」ワンロップ・ウィラサクレックである。このカードは、現状の全日本キックの中では最高のカード。こういう試合を出し惜しみしないのが、今の全日本の強みだ。


と、威勢よく書いてはみたが、僕自身のテンションは意外と低い。というのも、実は今回の全日本キックは前半の方のカードがかなり弱い。キック通のnar氏(id:nar-_-nar)は「こういう時の興行って、案外ハズれちゃうんですよねぇ」なんて事を言ってる。メインには山本 vs ワンロップが控えているというのに、なんとも贅沢な体質になったもんだな…。


本日は珍しく椅子席を購入、A席で5000円。いつものA席は4000円なのだが、今日はエース級選手出場仕様の値段。全日本キックは稀にこういう事があるので要注意。パンフレット代は1000円。観客は超満員、相変わらず全日本キックの人気は高い。

オープニングファイト 一方的な打ち込み、会場はちょっと盛り上がり

ウェルター級 3分3R
○宮越宗一郎(172cm/66.4kg/藤原ジム)
●平航(173cm/65.9kg/REX JAPAN)
[2R 2分39秒 KO]
※右フック

本日のオープニングファイトは一試合だけ。宮越 宗一郎は19歳、平 航は…なんと36歳という「年の差17歳対決」。


しかし試合は一方的。1Rから徹底したローキックとちょっと大振りなワンツー、ボディブロー、そしてアッパーで攻めまくる宮越。平は序盤こそローキックで対抗していたが、その後はしこたま打撃を喰らう。フラフラになる平、それでも立ち上がって試合をしていたが…、2R終盤に強烈な右フックが決まり、平はゴロリとリングの上を転がった。平は立ち上がれず、宮越が豪快なKO勝利を修めた。


やや大味な攻防ながらも、フィニッシュはズバリ決まってスカッとした一戦。若さはそれそのものが武器である。

第一試合 両者共にジムの色が出ていたが、会場はダレた

ライト級 3分3R
○野間一暢(170cm/60.8kg/JMC横浜GYM)
●鈴木真治(174cm/61.0kg/藤原ジム)
[判定 2−0]

両者が所属するジムのカラーが良く出た一戦。藤原ジム所属で小林 聡や前田 尚紀を先輩に持つ野間 一暢は接近戦でのパンチとローキックが中心、JMC横浜GYM所属で大輝や佐藤 皓彦を先輩に持つ鈴木 真治はガードが高め、中距離からのローキックが攻撃の主体。二人とも先輩達の写し絵のような闘い方だ。


試合は1R序盤は互角、だが終盤に鈴木をコーナーに追い詰めた野間のワンツーがヒット。更には2R序盤、野間の右ストレートがハードヒット、鈴木はバテバテに。しかし中盤以降、鈴木はボディブローを有効に使い挽回、終盤は鈴木がラッシュを仕掛け、野間は徐々に劣勢に。

押され気味の野間、ここより先はクリンチの回数を増やした。おかげで3Rはグダグダの展開、鈴木はクリンチを繰り返す野間にローキックやワンツーを捻じ込むが…有効打とはならず。こんな展開ながらも、判定は2−0で野間が勝利。


正直ドローで充分の内容。ダレた展開だったなぁ。

第二試合 単調なローキック合戦で、会場はダレた

ライト級 3分3R
○濱島康大(172cm/60.0kg/はまっこムエタイジム)
●田中信二(175cm/61.1kg/大村道場)
[判定 3−0]

濱島 康大は21歳、田中 信二は34歳という「年の差13歳対決」。ちなみに田中の所属する大村道場は、SBカーディナル級(=60kg級)初代王者であり、現在はSB公式レフリーを務めている大村 勝巳氏が主宰する道場。どう見てもSB系道場なのだが…、何故、全日本キックのリングに上がってるの?


で、試合展開は単調ながらも一方的に。1R序盤、お互いの距離が離れて殆ど打撃は出なかったが、終盤あたりから濱島がローキックでペースを握る。2R、押されている田中もローキックで挽回を図り、試合はローキック合戦に。勝ったのは濱島、ローキックで田中をスリップさせる。田中もローキックで必死に反撃するが、放った一発がローブローに。3Rにも田中はローブローを出してしまいイエローカード股間を蹴られ続けた濱島はダメージでやや失速、しかし最後までワンツー〜ローキックで攻めきり判定3−0で勝利。


だが正直、この一戦もダレた。お互いに単調なローキックが主体で、KOを狙えそうな雰囲気がなかったのが原因。すっかり会場は静まり返ってしまった。

第三試合 不可解な判定で、会場はダレた

ライト級 3分3R
△HIROAKI(175cm/60.3kg/峯心会)
△加門政志(180cm/60.8kg/士心館)
[判定 1−0]

お互いにライト級としては長身の持ち主同士。HIROAKIの175cmもこの階級としては堂々の長身だが、加門 政志の180cmはその上を行く。


と、威勢よく書いてはみたが…この試合も単調な展開に。今日は「観る側には厳しい展開」が続くねぇ。

序盤こそワンツーで勢いよく前に出た加門、しかしすぐにHIROAKIのミドルキックに捕まる。突破口を見い出せない加門、2R序盤にカウンターの左ストレートをヒットさせ、3Rは右ストレートがヒットする場面もあったが…それ以外は攻めが常に後手に回る。対するHIROAKIは全ラウンドを通してしこたま左ミドルキックを放った挙句、時折パンチをヒットさせて優位に立ったが…KOまでには至らなかった上、判定の結果も1−0のドローに終わった。


この一戦は展開もダレたのだが、判定結果にはもっとダレた。いくらなんでも、あそこまでミドルキックでペースを握ってりゃ、有効打はなくてもどう見てもHIROAKIの勝ちだと思うんだがなぁ。

第四試合 ダウンを奪って奪われて、ようやく会場の目が醒めた

スーパーウェルター級 3分3R + 延長3分1R
○望月竜介(U.W.F.スネークピットジャパン/全日本スーパーウェルター級 三位)
●MAD☆BULL(韓国/国際キックボクシング連盟ミドル級 王者)
[判定 3−0]
※MAD☆BULLは1Rにダウン1、2Rにダウン1、3Rにダウン1/望月は2Rにダウン1

この試合からは選手のレベルが上がる。ダレた展開が続いたが、一気の巻き返しを期待したい。


本日の第四試合と第五試合は、いわゆる日韓戦。その第一試合には2003年のR.I.S.E.のD.O.A.トーナメントで準優勝した実績を持つ望月 竜介が登場。強力なパンチを武器に、これまで16戦11勝5敗7KOの好戦績。対戦相手は若干20歳にして王者の肩書きを持つばかりか、韓国の100m走で10秒台の記録を連発し、高校記録を塗り替えた経験をも持つMAD☆BULL。こちらも12戦9勝3敗6KOの好戦績の持ち主、KO決着は必至かな?


1R、軽快にワンツースリーフォーとコンビネーションを繰り出してきたBULLに対し、望月の右フックが一閃。一撃でグラりと崩れたBULLにスタンドダウンが宣告されると、静まり返っていた会場から歓声が沸き起こる。その後、BULLは望月を警戒して距離を取るようになる。対する望月は積極的に接近し、ワンツーやボディブローを駆使してBULLを追い込む。しかしBULLは下がりながらもワンツーやローキックを放ちつつ、飛びヒザ蹴りを繰り出して反撃。ダメージは思ったよりも小さいようだ。


2R、序盤に「思わぬ一撃」が待っていた。ローキックを放った望月にBULLがワンツーで反撃、力の抜けた右ストレートが望月の顔面を打ち抜いた。望月は大きく崩れてダウン。思わぬ逆転劇に会場が騒然となる。なんとか立ち上がった望月だが、ダメージは大きい。足を使って必至に逃げ回る望月、BULLは追い回してパンチを入れていく。大ピンチを迎えた望月だが…終盤には持ち直し、逆にワンツーを入れてBULLにダメージを与えると、終了直前に右ストレートの二連発でダウンを奪い返す。白熱したシーソーゲームに、会場も大いに盛り上がる。


3R、2Rのダウンのダメージが大きいのかBULLから攻撃が出ない。リングを逃げ回るBULL、望月はワンツーの連打、右ストレート、ボディブロー、ローキック…等をガンガン叩き込む。フラフラになるBULL、中盤には背を向けて走って逃げる場面も。終盤、飛びヒザ蹴りを放って一発逆転を狙うBULL、その顔面に望月の右ストレートがヒット。BULLはスリップダウン、すぐさま立ち上がったもののレフリーはこれをダウンと見なす。BULLは必死に抗議したが受け入れられず。ま、背を向けて逃げる場面もあったくらいだし、ダウン宣告はやむなしだな。


試合終了、判定は三者共に28-24という派手な点数の付き方で、望月が3−0で勝利を修めた。


望月はU.W.F.スネークピットジャパン所属の選手として、ビル・ロビンソン直伝のパンチの破壊力を存分に披露したと言えるだろう…ウソです。本当はセコンドにもついていた大江 慎氏の指導力の賜物だな。

対するBULL、今日は負けてしまったが、まだまだ20歳。2Rにダウンを奪ったストレートはかなり力の抜けた美しい一撃だったし、韓国人特有の打たれ強さも見せたし、この先は日本人選手にとって脅威の存在になっていくだろう。

第五試合 終わってみれば完勝劇だったが、会場の盛り上がりは今一つ

54kg契約 3分3R + 延長3分1R
○藤原あらし(164cm/54.0kg/S.V.G./全日本バンタム級 王者)
●チェ・ジンスン(167cm/53.9kg/韓国/IKMF韓国バンタム級 王者)
[判定 3−0]

日韓戦の第二試合は、なかなか通好みな一戦。何でもできるオールラウンダー、藤原 あらしは全日本バンタム級の王者。前回の試合ではラジャサクレック ソー ワラピンを相手に計四度のダウンを奪ってKO勝利を修めている。子供も生まれて今が人生の絶頂期である藤原だが、今日の相手は一筋縄ではいかない。

J-NETWORKフライ級の王者である魂叶獅から二度に渡って勝利を修めているチェ ジンスンはIKMF韓国バンタム級王者。特に今年の四月の試合ではリベンジに燃える魂叶獅をハイキック一発でKO。戦績は16戦13勝3敗11KO、KO率は68.7%。難敵を相手に藤原はどう立ち向かうのか?


…と、煽ってはみたが、試合は非常に単調だったのでダイジェストで。

全ラウンドを通して、藤原がよく伸びる左ミドルキックで試合を支配していく。チェはこれに対応できず攻めが後手に。1R、ワンツーやヒジ打ちを狙って打開を図るも失敗、2Rは裏拳を繰り出すも空振り。3Rはアッパーやヒジ打ちを放つが…これもダメ。

反対に藤原は左ミドルキックを何発も叩き込みながら、2Rには組み付いてのヒザ蹴りやローキックを絡める。3Rにはストレートがヒットしチェの鼻からは出血、ドクターチェックが入る。いよいよ勝利が目前となった藤原だが…これ以降は気負うあまりに手数が出ず、試合は判定へともつれた。3−0で藤原が勝利。


接戦を予想されながらも、意外にも一方的な展開となった一戦。なのだが…折角第四試合で盛り上がった観客が、再び静まり返ってしまった。とはいえ、藤原が悪いわけではないと思う。観客が第一試合〜第三試合のダレ具合いを引きずっているんだよなぁ。いかんともしがた、というか。

第六試合 終わってみれば完敗劇、会場がまたまたダレた

57.5kg契約 3分3R + 延長3分1R
○ダーラタイ・ペッパヤッタイ(165cm/57.3kg/タイ/フェザー級)
山本真弘(163cm/57.5kg/藤原ジム/全日本フェザー級 王者)
[判定 3−0]

ここからは日泰戦が三試合なのだが、日本側は「W山本」と小林聡という最強の布陣。対するタイ国側はワンロップ ウィラサクレックやヨードクングライ ノーンカムジムといった、かつての「日本 vs タイ 五対五マッチ」で勝利を修めたタイ人の名が。となると、これはもう「日本 vs タイ 三対三マッチ」だ。こりゃ熱が入るね。

日泰戦の第一試合には、前回の五対五マッチでワンロップに惨敗した山本 真弘が登場。持ち前のスピードを完封されての敗北は山本にとって屈辱であったに違いない。今日の対戦相手は、特に肩書きを持たないムエタイ戦士、ダーラタイ ペッパヤッタイ。山本としてはあっさりと退けなくてはならない相手であろう。


さて、この試合も展開が非常に単調だったのでダイジェストで。1R、一番最初に山本はワンツー〜ローキックをハイスピードで決めて好調をアピール。

…しかし、これが「この試合、唯一の山本の有効打」となるとは誰も予想しなかっただろう。

ダーラタイは積極的には攻めず、ロープを背にしながら山本が前に出るのを待ち、山本が接近すれば強烈な右のミドルキックを叩き込む。このミドルキックが強烈で、一発決まる毎に観客からどよめきが起きていた。山本はこの戦法を前にまったく手が出ない状態。もともと山本は「相手の手数が多ければ多いほど、逆に真価を発揮」するタイプ。ダーラタイのように「自らは積極的には攻めず、ミドルキックでポイントを稼ぐタイプ」は苦手なのかもしれないな。

試合全般を通してダーラタイの右ミドルキックが止まらない。しこたま喰らった山本の左腕は2R終盤あたりから赤くなり、攻撃が出せない状態に。突破口を見い出そうと接近する山本だが、ダーラタイはヒジ打ちで迎撃。カットを恐れる山本は接近してからの打撃が単発に。そして引き際にはダーラタイの右のミドルキックが待っている。山本の左腕は益々真っ赤に。得意の「スピード感溢れる攻撃」が出せないのでは、山本には勝つ術はなし。試合は判定までもつれたが、3−0で文句なくダーラタイが勝利。


山本、タイ人戦で三戦勝ち星なし。今のところ「何をすれば山本がタイ人に勝てるのか」が思いつかない。あえて言うなら、自分のスタイルを変えてでも勝ちに拘る姿勢が欲しいかな?たまには「相手を誘って待つような戦法」もいいんじゃないかなぁ…と。

話題を絶やさないのが今の全日本キックの強み

10分間の休憩の後、リング上には色々な選手が次々に登場。


まずは総合の試合に打って出るWINDY 智美と吉本 光志がリングイン。WINDYは6月30日のSMACK GIRLで辻 結花と同団体のライト級王者戦を、吉本は7月28日のPANCRASEで裕希斗を相手に総合デビュー戦を行なう。WINDYは「辻は終わった選手である事を試合で証明する」と強気にコメント、吉本は「ルールは違うけど、闘争本能なら誰にも負けません」とこちらも強気にコメント。


次に登場したのは、次回の全日本キックの興行で防衛戦を行なう王者達である。「全日本ライト級王座」サトル ヴァシコバは増田 博正と、「全日本スーパーウェルター級 王者」石川 直己は前田 尚紀と対戦する。ヘラヘラ笑いながら「王座は絶対に渡しません」とコメントするヴァシコバに対して、石川は重々しく「チャレンジャー精神で前田さんに挑みます」とコメント。前回興行のメインで大宮司 進に敗れた事が本当に悔しかったのだろう。


最後に登場したのは、なんと「ムエタイの神」。ルンピニーとラジャダムナンの二大スタジアムで九冠王に輝いたチャモアペット チョーチャモアンがリング上に登場、自身の主宰する「チャモアペット ムエタイ アカデミー」が全日本キック連盟の加盟ジムとなった事を発表。こりゃ大ニュースだねぇ。

第七試合 「キッズ・リターン

62.5kg契約 3分5R
小林聡(170cm/62.3kg/藤原ジム/WKA世界ムエタイライト級 王者)
●ヨードクングライ・ノーンカムジム(170cm/62.1kg/タイ/元ルンピニーバンタム級 六位、現ライト級)
[1R 2分20秒 KO]
※左ボディブロー

彷徨える「野良犬」

こんな事を書いてしまっていいのかどうかわからないが、ここ最近の「野良犬」小林 聡の全日本キックでの役回りは「ドサ回り」という印象が強かった。これは、全日本キックをちゃんと観戦してきている人であれば皆、同じ感想を持つのではないだろうか?


昨年の全日本キックを振り返れば…。
○藤原 あらしがJ-NETWORK主催の「MACH55」で優勝
○山本 真弘と石川 直己が「IKUSA-U60」で優勝を争う
○ライト級王者の白鳥 忍(現・アマラ 忍)が古巣のMAキックで活躍
○佐藤 嘉弘が全日本キックを離脱、K-1 MAXへ転出
○山本 優弥がK-1 MAX進出
○ヘビー級王座がGRABAKAの郷野 聡寛に奪われる
○全日本ミドル級トーナメントは正道会館のTOMOが優勝
○「日本 vs タイ 五対五マッチ」初開催、全日本キック勢が全敗
このように、内へ外へと話題に事欠かない「激動の一年」だった。


しかし、その中心に「野良犬」の姿はなかった。


「どこから連れてきたのかも判らない外国人選手を相手に、一方的な展開の末にKO勝利を上げる」、昨年の小林の闘いを一言でいうならそんな感じ。明らかに興行の最前線からは外れたところでの別格扱い、勝てば勝つほどファンの心の中に「小林の試合はどうもなぁ…」という評価を植えつけていく「矛盾」。一応はKO勝利を重ねるのだから腕は錆び付いてはいないのだろうが…、「客寄せパンダ」のようなその姿には哀愁が漂っていた。

一蹴される「野良犬」

久々に小林が表舞台に立ったのは、今年3月に行われた二度目の「日本 vs タイ 五対五マッチ」。セミファイナルに抜擢された小林は、ヨードクングライ・ノーンカムジムという元ルンピニースタジアムバンタム級 六位の選手と対戦。

試合前、僕の周りの言葉は辛辣を極めた。「バンタム級で六位?小林より二階級も下じゃねぇか」「現在はノーランカーなんだろ?どうせ弱い選手だよ」「大体、小林の王座って防衛戦やってないだろ!」。キツい意見が次々に飛び出したが、それもこれも「小林に、このままで終わって欲しくない」という想いがあるからでこそ。皆、本当は小林に勝って欲しいのだ。


現実は厳しい。この試合、小林はヨードクングライの素早いヒジ打ちでアッサリと流血し、2RTKO負け。


僕は思った、「小林はもう終わりだろう」。34歳という年齢、67戦というキャリア。数字だけなら既に引退してもおかしくないところまで来ている。「小林は再び、日の当たらない舞台で弱い外国人を相手にKO勝ちを積み重ね、どこかで大一番に挑み、派手に散って引退していくのだろう」。

喰らいつく「野良犬」

しかし僕の勝手な想いとは無関係に、小林に突如チャンスが訪れた。本日の日泰戦の第二試合は…キック界では異例中の異例、たった三ヶ月でのリベンジマッチ。林は今日、再びヨードクングライに闘いを挑む。


…早い、あまりにも早すぎる。


通常、一度負けた選手に勝利するにはそれ相応の準備や練習が必要なわけで、再戦としてはあまりにも早急である。だが小林はパンフレットの中で「準備期間がどうこうって問題じゃない。やられたらやり返すんです。ムカついたら早くやりたい。それだけ」と、この一戦への意気込みをいたってシンプルに語る。心中に秘策はあるのか?それとも、この一言が「負け犬の遠吠え」となるのか?

牙を剥く「野良犬」

試合開始と同時に、「俺はお前の試合を見に来たんだ!」という小林への激励が飛ぶ。歓声が沸き起こる中、小林はまずソバットを放つが、ヨードクングライは怯む事なく左ストレートで襲い掛かる。守りを固めつつローキックやパンチの連打で牽制する小林、だがヨードクングライは構わず前に出る。小林はローキックを放ちつつ、逆に前に出て二度目のソバット。モロを喰らったヨードクングライはロープ際へ。


バッシーーーン!!
「ウオオオォォォーーーッ!」


その瞬間、観客がドーーーッと沸いた!会場中に音が響く程に強烈な、小林の右のボディブローがヨードクングライのボディを貫いたのだ!


露骨に苦しむヨードクングライ、一撃で流れを掴んだ小林はボディへ左右のブローを放って追い討ち、最後は右のボディブロー。ヨードクングライは突っ伏して倒れ、まるで立つ気配なし。

あっという間の出来事だが、説得力は充分。戦慄のKO劇でリベンジを果たした小林を観客がスタンディング・オベーションで祝福。万来の拍手と歓声の中、マイクを持った小林は現役ムエタイ王者に「You are Next!!」と対戦をアピール、大歓声の中で入場曲の「キッズ・リターン」が会場に流れる。

帰ってきた「野良犬」

感慨深い。実はこのフィニッシュのボディブローは、この一年、小林が外国人選手を相手に何発も打ち込んでいた「新しい武器」。ガードが高いムエタイ選手に対しては、接近さえできれば非常に有効な攻撃になるだろう。今日は実戦でその事を証明した形になった。一緒に観戦してしたnar氏がつぶやく。「対ムエタイ戦であれば、小林は選手寿命が伸びましたね」。

キッズ・リターン

そういえば、小林の入場曲である「キッズ・リターン」は、北野 武監督の同名の映画のテーマ曲だ。この物語のラストシーンで、人生の挫折を経験した主人公二人が自転車を漕ぎながらある台詞を吐く。

「もう俺達、終わっちゃったのかな?」
「バーカ!まだ何も始まっちゃいねぇよ!」

第八試合 ヒットマン同士の殺し合い

フェザー級 3分5R
山本元気(166cm/57.0kg/DEION GYM/全日本フェザー級 一位)
ワンロップ・ウィラサクレック(170cm/57.1kg/タイ/M-1バンタム級 王者)
[判定 1−0]
※山本は3Rにドクターチェック1

日泰戦の第三試合はメインイベントにして、現状の全日本キックが提供できる最高のカード。七連勝中の「切り裂き魔」にして「WSR軍団の軽量級のエース」ワンロップ ウィラサクレックに、「KOアーティスト」にして「右の殺し屋」である山本 元気が挑む。


実は、山本 元気の対ムエタイの戦績は決して良くはない。昨年からの対ムエタイの戦績は4戦2勝2敗2KO。勝つときは必ずKOを修めているものの、2敗のうちの一つは何もできずに惨敗し、もう一つは切り裂かれての逆転負けを喫しているのだ。日本人やヨーロッパの選手を相手にしている時の元気の強さを考えれば、これは意外な事実であると同時にムエタイの強さを物語っているとも言えるだろう。だが前回の「日本 vs タイ 五対五マッチ」では、先鋒戦にて強豪カノンスック フェアテックスを相手に「必殺の右」で1RKO勝ちを修めた。もう苦手意識など存在しない、今日は必殺の右で快挙を狙う。

ワンロップ・ウィラサクレックはそれまでKO負けのなかった藤原 あらしや山本 真弘に、人生初の屈辱を味あわせた男だ。恐怖のヒジ打ちを武器に、これまで対日本人9戦8勝1敗7KOを誇る。今日は後楽園ホール西側を埋め尽くしたWSR大応援団の声援を背に入場、「日本人最後の切り札」を倒した後に狙うのは二大スタジアムの王座か?


1R、お互いのパンチが交差する中、山本のハイキックをワンロップはスウェーでかわす。反対にハイキックを繰り出すワンロップ、山本はしっかりとガード。まずはハイキックで挨拶、といったところか。

試合の図式が固まる。ジリジリ前に出る山本、ワンロップをロープ際へと追い詰めれば得意のワンツーでプレッシャーを掛ける。ワンロップは山本が接近すると左右のヒジ打ちで対抗。お互いの打撃の手数は少ないが、何せ両者共に「一発」を持っているだけに緊張感はハンパではない。観客もこの攻防を固唾を飲んで見守る。


2R、接近する山本を嫌うワンロップ、前蹴りを多用して距離を稼ごうとする。だが山本はこれに怯まず、前に出てワンツー〜ローキック、ボディブロー、ワンツーの連打で観客を沸かせる。やや劣勢のワンロップ、前蹴りに加えてミドルキックも多用、山本真弘戦と同様に腕を破壊しようとするが、山本はまったく下がらずにロープ際に追い詰めて、ミドルキックやワンツースリーの連打。ワンロップにここまでのプレッシャーを与えた日本人選手がいるだろうか?その力強い姿に観客が歓声を上げる。


3R、試合の図式は相変わらずの「下がるワンロップの前蹴り & ミドルキック vs 追う山本のワンツー & ボディブロー & ミドルキック」だったが…、その均衡が破れたのが中盤。ワンロップをコーナー際へと追い詰めた山本のワンツーがついにワンロップの顔面を捉えたのだ。大きく仰け反るワンロップ、チャンスと見た山本は一気にワンツーのラッシュを仕掛ける。「ワンロップ、陥落かっ!?」観客は大歓声で山本の攻勢を後押ししたが…。


その歓声の一部が「切れてる!切れてる!」と叫ぶ。そしてその声は、段々と大きくなっていった。


山本がラッシュを仕掛ける中、ワンロップはしっかりと左ヒジで顔面を切り裂いていたのだ。山本、右のコメカミから大出血。観客はさっきまでの大歓声から一転し落胆ムードに。

山本の負傷の具合を見るべくドクターチェックが入る。「やらせろ!」「まだやれるぞ!」「止めるな!」、ストップを心配し声を荒げる観客達。総合格闘技のファンと違って、キックのファンはどこか荒々しい。長い間、何かを検討していた医師団だったが、やがて試合は再開。この決定に観客は大歓声を上げる。

だが、この再開に納得しない男がいた。誰あろうワンロップだ。確かに素人目にも山本の傷口はかなり深いように見える。レフリーに「あの傷はドクターストップものだろっ!?」と何度も主張するワンロップ。だがそのアピールが聞き入れられる事はなかった。

再流血すればドクターストップ負けは必至、山本は必死に距離を詰めていくが、これですっかりやる気がなくなったのか、ワンロップはやたらと前蹴りを連発し、山本との距離を突き放す「流しモード」に突入。


4Rと5R、ワンロップの「流しモード」が崩れる事はなかった。ラウンドが始まる度に傷口に大量のワセリンを乗せて前に出る山本。ワンロップとしてはこの傷口を開けば勝利は確定するが…、山本の「一撃の重さ」を体験しているだけに不用意には近づけない。今までのラウンド以上に、ひたすら下がりながらの前蹴りとミドルキックを多用するワンロップ。リングをクルクルと廻って山本に追い詰められないように警戒し、たとえ山本に追い詰められてワンツーを繰り出されてもしっかりとガードを固めて防御、打ち合う事なく足を使って逃げていく。

ムエタイの猛者にこれをやられてはどうにもならならない。何度もワンロップをコーナー際へ追い詰めた山本だが、3Rで見せた一発が再び爆発する事はなかった。観客が溜息を漏らす中、試合は終了。


判定は一人が山本を勝者としたものの、残り二人はドロー裁定。残念そうな表情を浮かべる山本、ワンロップも納得していない様子だ。観客もまた、残念そうな声を上げながら会場を後にしていった。


う〜ん、1R〜3R中盤までは文句のない内容だったが、たった一度の「大きな見せ場」が、その後の試合の流れまでも変えてしまった…というか。まあドクターストップをアピールするワンロップの主張もわかるし、かといって「一ファン」としては当然ながら試合の続き、ひいては山本の勝利を観たいし…。難しいところだ。

まあ一つ言えるのは…この試合がドローになった事により、間違いなく近日中に再戦が組まれるという事だ。いいねぇ、この一戦は本当に「続き」が見たいね。山本の「右」がワンロップに通用するという事実だけでも、今日はファンにとっては大きな収穫だったんじゃないかなぁ?

雑感

セミ、メインは素晴らしい内容ながらも…前半の試合がダレまくり、藤原 あらしと山本 真弘は不完全燃焼。全体的な印象としては「低調」と言い切れるかな。…我ながら贅沢すぎる感想だが、逆に言えば今の全日本キックはこれを言い切れるくらいに脂がのっていると思う。

それにしても、今日のメインは本当に「死闘」だった。山本 元気のパンチの破壊力も本物なら、ワンロップのヒジ打ちの切れ味も本物。両者の再戦は必至、その舞台は第三回の「日本 vs タイ 五対五マッチ」だろう。そして今日の主役は文句なく「野良犬」小林 聡。ボディブローの破壊力が本物である事を証明した小林、34歳という年齢でのムエタイ王者との対戦は実現するのだろうか?

いずれにせよ、セミとメインに出場した日本人二人が興行のストーリーを明日へ繋げたのは、低調だった今日の全日本キックにとっては大きな収穫だろう。


以上、長文失礼。