1/4 全日本キック 後楽園ホール興行 観戦記

1.4といえばコレ!

1.4といえば「『東京ドーム』…のお隣の『後楽園ホール』で全日本キックを観戦」と決まっている。…ウム、今年一発目の観戦記の最初の一言はコレだ。全日本キックの面白さはもっと知られていい。

今年最初の全日本キックは、「伝統のライト級」「復活のSフェザー級」「今、もっとも熱いフェザー級」の三大タイトルマッチを柱として打ち出してきた。年始から大判振る舞い。出場選手も、フェザー級王座を争う「山本元気山本真弘」の「W山本」を始め、Sフェザー級王座を争う石川直生前田尚紀、ライト級王座を争うサトル・ヴァシコバと吉本光志。その他にも湟川満正や大輝…と、昨年の全日本キックの興行を支えた選手が勢揃い。これだけの選手を揃えれば後楽園が超満員になるのは当たり前。あとは彼らが何を見せてくれるのか、だ。まあ、「W山本決戦」がメインならその点は全く心配がないんだけどさ。

ちなみにチケット代は立見席4000円、パンフ代1000円。この値段でレベルの高い攻防が見れるのは嬉しいね。

オープニングファイト第一試合

ウェルター級 3分3R
日菜太(180cm/66.2kg/湘南格闘クラブ)
●小樽基能(172cm/67kg/はまっこムエタイジム)
[1R 1分23秒 KO]
※ストレート

リーチに優る日菜太が小樽基能を圧倒。開始直後からミドルキックやローキックで散々に蹴りまり、最後はストレートであっさりとKO。

オープニングファイト第二試合

ミドル級 3分3R
○佐藤皓彦(182cm/71.8kg/JMC横浜GYM)
●稲村直人(176cm/71.8kg/TEAM-1)
[判定 3−0]

下がりながらミドルキックを連発して試合をリードする佐藤皓彦。稲村直人はローキックを中心に何とか佐藤のペースを崩そうとする。2R後半からはお互いにガス欠状態。試合の流れは止まったが、それでも主導権は佐藤が握る。稲村は裏拳やワンツー、ハイキック等を試すも、ペースを崩せない。反対に佐藤は、疲れながらも最後までのミドルキックを放ち続けると、3R終盤には左ストレート、左フックと有効打を叩き込んで判定勝利を手にした。

オープニングファイト第三試合

ライト級 3分3R
○村山トモキ(170cm/60.7kg/AJジム)
●堀口貴博(170cm/60.9kg/ウィラサクレック フェアテックスジム)
[判定 2−0]

ワンツー、前蹴り、左ミドルキック、飛びヒザ蹴り、と序盤から多彩な攻撃を繰り出す村山トモキ。対照的に堀口貴博はローキックと組み付いてのヒザ蹴りのみを武器に対抗。こちらは第二試合とはうって変わってお互いにスタミナを切らす事なく最後まで打ち合う。勝負を決めたのは3R、要所要所で村山の左ストレートがヒット、堀口の動きを止めた。判定は僅差で村山が勝利。オープニングファイトとは思えないレベルの試合だった。

第一試合 売り出しセール開催中

ウェルター級 3分3R + 延長3分1R
○大輝(178cm/66.5kg/JMC横浜GYM/全日本ウェルター級 九位)
水野章二(177cm/66.6kg/湘南格闘クラブ)
[2R終了時 TKO]
※タオル投入 水野には2Rに2ダウンあり

今年の本戦一発目はこれまで6戦6勝4KO、デビュー以来無敗の大輝の大売り出し試合である。対戦相手の水野章二は11戦3勝7敗1分3KO、キャリア的には大輝とは全く釣り合わない…のだが、それでも1Rの序盤は積極的に前に出てワンツーで大輝を攻め込んでいく。

だが…やはりと言うか何と言うか、1R中盤に差し掛かる頃には大輝がペースを握っていた。強烈なミドルキックとローキックを連発すると水野は下がる一方。2Rにはキックにワンツーを交えて攻め込んで水野の体力を削っていくと、2R終盤、まずはローキックからボディブロー、そしてワンツーをヒットさせて水野からダウンを奪う。続けざまにハイキックの二連発で2ダウン目を奪った大輝は、ラウンド終了のゴングまで水野をメッタ打ち。2R終了時に水野のセコンドがタオルを投入した為、試合終了。

ぶっちゃけ、大輝はこのレベルで試合をする選手じゃないだろう。デビュー以来無敗の「可愛い子」だというのはわかるが、もっと旅をさせて欲しいね。

第二試合 赤羽はいつでも無表情に勝っていく

フェザー級 3分3R + 延長3分1R
赤羽秀一(172cm/57.1kg/ウィラサクレック フェアテックスジム/J-NETWORKフェザー級 三位)
●正巳(167cm/56.5kg/勇心館/全日本フェザー級 五位)
[2R終了時 TKO]
※右目尻のカット

強力なパンチを武器に13戦8勝3敗2分5KO、昨年は3戦3勝3KOと文句のない戦績を誇る正巳…だが、個人的には「まだまだ全日本のフェザー級のトップ選手との差は大きいかなぁ」なんて思っている選手。もう少しスタミナとかつけないと「W山本」とかには勝てないかな?って感じで。

公式戦ばかりでなくムエタイ居酒屋「オーエンジャイ」等でもハイペースに試合をこなす赤羽秀一。1Rこそ正巳のワンツーとローキックの連打を打たれまくる…が、赤羽はここからが真骨頂。どんなに打たれても自分のペースを崩さず、前に出てはローキックとヒザ蹴りを連打する。と、正巳は早くも疲れてしまい攻めが後手に回ってしまう。

で、2Rになるともう完全に赤羽のペース。顔からは鼻血を出しながらもポーカーフェースで前に出続けると、ミドルキックとローキックを出しながら正巳に組み付いき、ヒザ蹴りを何度も連打。全く反撃できない正巳はこのラウンドにしこたま打撃を喰らい、赤羽のヒジ打ちで右目尻をカット。2R終了時にドクターが試合をストップ、赤羽が勝利した。

相変わらず赤羽は曲者だね。どんなに打たれても表情一つ変えず前に出続ける姿勢はいい感じ。

第三試合 豪州限定といえどボクシング王者は強い

70kg契約 3分3R + 延長3分1R
○ゲンナロン・ウィラサクレック(171cm/70.0kg/タイ/元WBF豪州ウェルター級 王者)
●江口真吾(185cm/69.8kg/AJジム/全日本ミドル級 二位)
[判定 3−0]

元豪州ボクシング王者、ゲンナロン・ウィラサクレック。全日本ウェルター級王者、山内裕太郎を激闘の末に下した試合はまだまだ記憶に新しいが、その時も猛威を奮った打ち下ろしの左ストレートを主武器に、パンチで江口真吾を圧倒していく。更にはムエタイ戦士らしい首相撲からの投げ、ミドルキック、ヒジ打ち。江口は3Rにストレートやブラジリアンキックをヒットさせるも、目立った攻撃はこれくらい。全ラウンドにおいてゲンナロンが試合を支配し、判定3−0で勝利した。

まぁ、強いよゲンナロンは。江口はよくしのいだと思う。

第四試合 MIKに活目せよ

ウェルター級 3分3R + 延長3分1R
湟川満正(178cm/66.4kg/AJジム/全日本ウェルター級 三位)
●ウィラチャート・ウィラサクレック(170cm/66.3kg/タイ/元ルンピニースタジアムライト級 六位)
[判定 2−0]

全日本キックでは昨年の「MIK」に認定された湟川満正。ちなみに「MIK」とは「Most Improved Kickboxer」、つまり「最も成長したキックボクサー」という事。昨年は4戦3勝1敗1KOだが、その戦績以上に全ての試合が「激闘」と化していた印象の方が強い。特に、唯一の敗戦「vs 白鳥忍」戦は本当に凄い試合で、一緒に観戦していた友人は感動して涙していた程。「記録より記憶に残るキックボクサー」が、今日はムエタイ超えに挑む。

試合では、湟川が全ラウンド通して休まずに打撃を繰り出し続けた。どんどん前に出て、白鳥を苦しめたローキックを中心にワンツーやアッパーを駆使して攻め込む。対するウィラチャートはヒジ打ち、ミドルキック、首相撲で反撃。特に2Rは何度も湟川を投げたが…、その分、湟川は3Rにパンチを何度もパンチをヒットさせる。更にはローキック。3R終盤にはウィラチャートの動きはかなり落ち、組み付くのが精一杯の状態に。

判定は2−0で湟川が勝利。湟川はここ一年でパンチの技術とスタミナが伸びた印象があるなぁ。「打ち合い好き」の性格も好印象。今年一年も「激闘」を期待したいところ。

第五試合 秘策的中

全日本ライト級 王座決定戦 3分5R
○サトル・ヴァシコバ(170cm./69.0kg/勇心館/全日本ライト級 一位)
吉本光志(171cm/61.0kg/AJジム/全日本ライト級 二位)
[2R 2分30秒 KO]
※左フック ヴァシコバが新王者に

いよいよ三大タイトルマッチがスタート、その第一戦は「伝統のライト級」。かつては小林聡大月晴明も巻いていたベルトだ。全日本キックでは前王者だった白鳥忍(現 アマラ 忍)の王座返上に伴い王座決定トーナメントを開催。そして勝ち残ったのは、二人共に昨年は海外でタイトル奪取に成功した選手だった。

昨年はWFCA世界スーパーライト級王座を手にしたサトル・ヴァシコバ。だがそれ以上にインパクトが残ってしまったのが「vs 山本雅美」戦での敗戦だと思う。一瞬の隙を突かれてヒジを喰らったのが運の尽き、この時の傷がもとでTKO負け。見た目の若さとは裏腹にヴァシコバは今年で32歳、山本との再戦は是非観たい。

昨年は出番が少なかった「黒豹」吉本光志だが、こちらもIKMF東洋ライト級王座を奪取。J-NETWORKからの転向を果たしている吉本曰く「勝って連盟に恩返しがしたい」んだそうな。対戦相手のヴァシコバとは約1年前に対決、その時は吉本が左ストレートで2RにKO負けを喫した。「前回とは同じミスをしない」、吉本は今、復讐に燃えている。

さて試合は「前に出るヴァシコバ vs 打たれ強い吉本」という展開だった。得意のストレートを武器にガンガン前に出るヴァシコバ、下がりながらミドルキックを入れる吉本。手数自体は若干ヴァシコバが上だが、吉本もダメージがある訳ではないので後半の巻き返しが期待できる。

…と思っていたら、2Rに予期せぬ一撃。ヴァシコバの「秘策」裏拳が吉本の顔面にクリーンヒット。ダウンを喫する吉本、なんとか立ち上がるもダメージはありあり。チャンスと観たヴァシコバは一気にパンチで畳み掛け、最後は左フック一閃。大の字の吉本はピクリとも動かず。ヴァシコバが念願の全日本ライト級新王者となった。

う〜ん、ヴァシコバの裏拳は読めなかった。本当に今まで使っているところを観た事ないしなぁ。ヴァシコバ、今年はそのキャラクターに似つかわしく派手に暴れ回って欲しいところだね。

第六試合 だ……だ……大丈夫かねぇ?

全日本スーパーフェザー級 王座決定戦 3分5R
石川直生(176cm/58.7kg/青春塾/全日本フェザー級 三位)
前田尚紀(166cm/58.8kg/藤原ジム/全日本フェザー級 一位)
[1R終了時 TKO]
※右肘打ちによる額の陥没 石川 直生が新王者に

この二人、同じフェザー級でも昨年は対照的な道を歩んだ。
昨年は他団体であるIKUSA GP-U60の舞台で大活躍、見事準優勝に輝いた石川直生に対して、前田尚紀全日本キックの舞台で他団体選手と連続で対戦、見事に全員撃破しているのだ。闘い方も対照的な二人が三大タイトルマッチ第二戦、「復活のSフェザー級」に挑む…、

………。

…正直、層の厚い全日本フェザー級に余計なタイトルが増えてしまったなぁ、と。石川や前田に冠をつける為「だけ」のタイトルにしか見えない、というか。トーナメント開催が決定しているスーパーウェルター級にしてもそうだけど、細かすぎるタイトルの増設は最強が見えなくなるから、観ている側としてはやめて欲しいところ。

試合は典型的な「リーチの長い選手 vs リーチの短い選手」となった。遠距離では石川がパンチや蹴りで牽制するも、前田は距離を詰めてインサイドからパンチのラッシュ。これを嫌がる石川は前田を掴まえて得意のヒジ打ちやヒザ蹴りを見舞う…、という展開が延々と続いていく。お互いの得意な距離や技が非常に解り易い試合、噛み合った攻防に会場も沸いたが…。

1Rの終了時、不意に石川がガッツポーズを決めながら自分の右ヒジを強調する。「何事か?」と思ったら…、何と前田の額が陥没しているではないか!さすがにこれはストップだろう…と思ったら、やっぱりドクターストップが掛かった。それは全日本スーパーフェザー級王者 石川 直生が誕生した瞬間でもあった。

得意としているヒジ打ちでの勝利という事もあり、石川はかなり嬉しそうだった。僕としては昨年一年間、自分の団体で頑張っていた前田に勝って欲しかった。残念。そしてそれ以上に、好勝負になりかけていたこの試合があっさりと終わってしまったのが残念。…それにしても前田の額の陥没っぷりは尋常じゃない。大丈夫なのかねぇ?

第七試合 続・W山本決戦

全日本フェザー級 タイトルマッチ 3分5R
山本真弘(165cm/57.0kg/藤原ジム/全日本フェザー級 二位 & IKUSA-U60 戦王)
山本元気(166cm/57.0kg/DEION GYM/全日本フェザー級 王者)
[判定 2−0]
※山本 真弘が新王者に

本日のメインイベントは「今、もっとも熱いフェザー級」のタイトルマッチ。王者 山本元気山本真弘が挑む、といういわゆる「W山本」決戦…だけではなく、「全日本フェザー級王者 vs IKUSA-U60 戦王」という「フェザー級 頂上決戦」という側面もある。

二人は2004年12月5日の「藤原祭り」でもタイトル戦を行っており、この時はお互い実力拮抗だったが、3Rは元気がミドルキックやボディブローで攻勢。ならばと5R、真弘がラッシュを仕掛けて優勢に立つ。判定は0−0のドロー。師匠・藤原 敏男に勝利とベルトを捧げられなかった真弘はリング上で号泣。真弘を慰める藤原の姿は、観客席に感動を呼んだのだった。

今日は13ヶ月ぶりの再戦。果たしてこの試合の後に笑っているのはどちらの「山本」なのか?

試合は、「フェザー級 頂上決戦」の名に恥じないフェザー級 最高の技術戦となった。距離が開けば重いミドルキックを放ち、距離が詰まればもの凄く早くて重いパンチを連打する元気。前に出ながらパンチをスウェーでかわし、カウンターのストレートやミドルキック、ローキックを放つ真弘。前回と同じく本当にハイレベルな攻防が休む事なく続く。今回も両者の実力は全くの互角。それにしても元気の打撃はフェザー級の枠を超えているし、真弘のディフェンスはキック界でも随一。特に真弘が、元気の鬼のように早いパンチをダッキングやスウェーでかわす姿は圧巻だった。

時は過ぎ、あっという間に5R。だが彼らは、疲れるどころか益々手数が増えているではないか。ワンツースリーフォーとパンチを繰り出す元気、身体を振りながらミドルキックを放つ真弘。破壊力のあるミドルキックを放つ元気、ボディブローを連打する真弘。パンチとミドルキックがひたすらバシバシと交差し続ける両者の攻防、しかしこのラウンドも全くの互角。試合終了、休む事なく全ラウンドを闘い抜いた両者に大きな拍手が贈られる。

さて気になる判定だが…、なんと2−0で真弘に凱歌、新王者の誕生だ。う〜ん、僕にはどう観てもドローの内容だと思うのだがなぁ。この裁定にはちょっと水を差されたな。ともあれ、この試合自体が「名勝負」であった事には違いはない。また一年後に観てみたいカードだな。一昨年の試合から通算10R、お互いにダウンはなし。今度こそダウンを奪い合っての決着が観たいね。

雑感

正直、昨年の1.4(メインは「大月晴明vs 小林聡」)に比べると爆発力に欠けた印象はあるものの、今年の「1.4」も、お隣のドーム興行に向かって「こっちの方が面白い!」とハッキリ言える内容になった。

初戴冠となる石川とヴァシコバには、このチャンスを活かして更なる飛躍を望みたい。そしてW山本は、ライト級に代わって「激戦区」となったフェザー級の代表として団体を背負って欲しい。

それだけではない。今日は出場していない選手にも、色々と期待したいところだ。大月晴明には鮮烈なる復帰を、アマラ忍には堂々とした凱旋を、山本優弥には大舞台での活躍を、そして小林聡には生きざまの見える試合を。

…本当に駒が多いな、今の全日本キックは。


以上、長文失礼。